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夕刻神楽たち万事屋と別れ、娼館へと帰宅する。その際の服装は、一旦遠いコンビニに寄ってから着替え、きちんと小袖に変えている。さすがにあの格好では目立ちすぎた。
「ただいま戻りました」
「あら壱さんおかえり。早めに着替えておいて頂戴な。お披露目は九時だよ」
「……本当にやるんですか……、それ」
思わず顔が苦くなる。目立たないように娼館へと身を隠したはずなのに、なぜにお披露目などやるのだろう。
お披露目は女将が言い出したことだった。つまり吉原の高級遊女日輪のように、高級娼婦としてしまえば私が人と会うことを極度に制限できるというものだ。確かにそれはそのとおりなのだが。
女将は楽しそうに微笑んでおり、かつらと派手な衣を一式手渡してきた。
「これに着替えておいで。宮、紅、着せて差し上げなさい」
わらわらと寄ってきた二人の私付きのかむろにそういって、かむろたちはこくりと従順に頷く。そして渋い顔をしている私の腕を両側から掴んできた。
「壱様なら美しいです」
「きっとお似合いです」
「嬉しくないよ……。もしも私を買いたいという物好きがいたらどうするんです?」
懸念はそこだ。他はどうにかなる。
今まで客に買われたフリをしてきたのだが、そうするわけにもいかなくなってきた。バレてはいないが怪しまれる。
女将はああと頷いて微笑んだ。どこから来るんだろうこの余裕は。
「大丈夫よ、真選組の副長さんがご執心って噂は流してあるから」
「……う、嘘でしょう……?よりによって土方君?」
「あら一番人気なのはあの人じゃない」
「人気うんぬんの話ではありませんよ……」
嬉しくない……土方君の苦すぎる顔が思い浮かんでげっそりした。ついでにくっついて思い浮かぶ少年。いや、もう青年か。
「今日はいつものあの人ともう一人来るみたいよ。楽しみねえ」
いつものあの人は山崎君のことだ。地味に彼は遊女たちの間で可愛がられている。
もう一人?局長だろうか。
頭を抱えながら二人のかむろに連れていかれるまま、私は自室へと引き下がった。
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