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かむろ二人を下げさせて、簪を外す。かつらをとめていたピンをも外していけば、緩くなったのでかつらさえも外す。そうして髪をあげて微笑めば、納得したように彼らは感嘆のため息を吐いた。
「久しぶりですね、局長、土方君。元気にしていましたか?」
「一瞬誰かと思ったよ。いやぁ化けるもんだなぁ」
「ふふ。さ、飲んでください」
「何さりげなく勧めてんだてめえは」
「売り上げに貢献するのも大事な仕事ですから。さすがに居候させてもらってる身で仕事をしないのは、ね」
「こっちの仕事をやれ」
「失礼だなぁ。やってますよ、ねえ、山崎君?」
「え?あ、はいもちろんです!」
四人きりだが会話はいつも通り進む。二ヶ月も離れていたのだとは到底思えなかった。
酒をばんばん浴びるように飲ませつつ、自身も時折舐める。ようやく本題に入る頃には、局長と山崎君は仲良くつぶれていた。
「だからあんまし飲むなっつってんのによ……。おめェも調子こいて飲ませすぎだ」
「あはは、つい懐かしくて。じゃあ本題に入りましょうか」
「あぁ」
資料を取り出して土方君に手渡す。この格好でやるのもどうかとは思うが、面倒になって胡坐をかけば、軽く白い目で見られた。無視して話を進める。
「土方君から預かった別件のほうですが、今のところ動きはありません。順調につけさせてもらっています」
「バレてんのか」
「でしょうね。尾行に失敗した者をわざわざ団子屋で待っていたらしいですから」
情けない部下の泣き声を思い出していらっとしてきた。
「……戻ってきたら鍛え直しとけよ」
「ええ勿論」
にっこり微笑めば土方君は渋い表情をした。私の鍛え直すはそこまで鬼畜じゃなかったと思うのだが。
「やはりこちらの一件が終わってから、私が動いたほうが効率的でしょう。沖田君を動かすのも有りだとは思いますが」
「いや、あいつには向いてねえだろ。永倉あたりに任せるか」
「ああそれは良さそうですね。それから私のほうの件ですが、本日万事屋に依頼してきました。数日中にはここを出ます」
「場所の見当は?」
「屯所から遠いところにお願いしました。裏社会の女性も頼んでおきましたから、夫婦で通します」
「……手出すなよ?」
微笑んで応えない。さすがに裏社会の人間に手を出すほど飢えちゃいないし、それくらいなら分別もある。
土方君は肩をすくめて、一杯酌を促してきた。頷いてお猪口にいれて差し出してやる。
「山崎との連絡は怠るなよ。お前からの報告がこなくなったら、てめえは切る」
除名、のことだ。
苦笑して頷く。それはもとより承知のこと。本来いないはずの女、いないはずの存在を、今まで生かしてくれていたのだ。感謝してもしきれない。
「安心してください。きっと、戻ってきますから」
「必ず、じゃあねえんだな」
ぼそりと落ちた言葉に、わずか目を見開いて。
それから唇の端をわずかに歪めて、
笑った。
「できもしない約束は、しない主義なので」
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