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□四
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それから一週間もしただろうか、携帯に一本の連絡が入る。電話をかけてくるのは土方君と山崎君、それから隊の部下だけだったから、番号すら確認せずに電話に出て、聞き慣れぬ声に戸惑った。誰だ?


「もしもし伊藤君?」

「いえ、斎藤ですが。――失礼ですがどちらさまでしょう?」

「うわ忘れられちゃったよせっつなー。なぁ神楽俺忘れられちゃ」

「早く退けヨくそ天パ。――もしもし壱アルか?」

「ああ、神楽。ってことはさっきのは坂田さんかな?申し訳ないことをした」

「気にしなくていいアル。家と女の人絞れたヨ。これから万事屋これるアルか?」


存外仕事が速い。やはり土方君の推薦は伊達じゃない、そういうことなのだろう。

娼館から出、歩きだしながら応える。ならこちらも早く動いてしまったほうが得策だ、二度手間は好まない。


「ありがとう、今から行くよ。四十分もすればつくと思う」

「了解ネ!待ってるアル」


プツッと音が途切れ思わず苦笑が漏れる。このあときっと神楽は新八君あたりに叱られているのだろう。


「なら、私も叱られないようにしなくてはいけないな」


途中寄ったコンビニから着替えて出れば、痛いほどの殺気が身を啄む。久々の感覚に、知らず笑みが零れていた。

奴らもそうだがどうも殺気が尋常ではない。部下たちがバレたのもそれが原因じゃないだろうか。一見穏やかそうな私の部下はしかし一様にキレやすい。きっと目標の動きに即座にキレたのだろう、そんな図が目に浮かんでため息が漏れた。やはり鍛え直すしかないな。

万事屋には迷惑がかからないところ。かといって屯所や娼館に近いのもよくない。こんな素晴らしい夕焼けの中、公園を惨状にするのも可哀想だ。

チャキ、と刀を抜いて私が振り返った場所は、鉄塔の下だった。本来人が近付かぬ場所に、今私を囲むようにして十人足らずが立っていた。思わず眉をひそめ、穏やかに笑う。


「随分、舐められたものだ。その人数で君たちが適うとでも?」

「あまり我らを甘く見ないほうがいい」

「貴様が今まで相手取ってきた奴らとは違う」


確かに目付きは今までの雑魚よりはっきりと格上だ。それが、九人。
ゆっくりと愛刀を構えながら、笑う。凄惨な笑みを。


「さあ、楽しもうか」



「壱遅いアルなー」

「四十分で着くっていってたんだよね?もうあれから一時間越えてるのに、どうしたんだろう……」

「心配すんだけ無駄だろ。来ないなら来ないで連絡しそうだし、連絡もねえってんなら――」


ピンポーン。

わずかに聞こえてきた会話に苦笑しながら、チャイムを鳴らす。多少ついたが許してもらおう。拭けば落ちるし。

ダダダダダッという音と共に扉が開かれ、勢いよく抱きつこうとしたのだろうか、神楽が突っ込んできた。さすがに今は無理なので彼女の頭をがっしり掴んで押し戻す。斬られた腹がじくじくと痛んだ。


「壱……?っ、壱!!!大丈夫アルか!?」

「いらっしゃ、ってえ、壱さん!?どうしたんですか!?」


二人に介抱されながら部屋に入れてもらう。確かに散々な状況だからこそ、坂田さんのまともな反応に落ち着いた。


「え、まじ?」

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