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□五
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十一月が目前に迫る、そんな日の夕刻だった。

だんだんと冷たくなってきた空気を頬に感じながら、私は誉に頼まれた食品の買い出しを終え、スーパーの袋片手に一人街中を歩いていた。


着流しの上に羽織りをまとってはいるものの、じわりと忍び寄る冷気に身体が震える。寒くなったものだ。やはり彼女のいうとおりマフラーを借りるべきだったか。

そんなことを思いながらふと笑みをこぼした。偽りでしかないのに、穏やかで満ち足りた日々というのは、どうしてか心を癒す。そこに大切な人たちの姿はなくとも。


「いつになったら戻れるんでしょうね……」


ため息を吐きながら言葉を漏らす。早く屯所に戻りたかった。長期任務で離れることはあっても、必ず誰か部下や山崎君が側にいた。しかし今回に至ってはそのどちらもいない。山崎君に会えるのも毎日ではないし。代わりに私の居場所を知った沖田君がうろちょろしてうざいこと極まりないのだが。


どんなに情報を集めたところで、一向に話が進まないのも変わらない。ならせめて、顔くらいは私の前に出してもいいじゃないかと、あの男すら憎らしく思う。いっそ、今のこの穏やかな日々を打ち壊すような、そんな何かが起こればいいと。

不謹慎にそう思った。


とはいうものの、そう簡単に何かが起きるというのは、恨まれている真選組ならば当然だ。今もスーパーの袋を片手に持っている状態なのに、ひしひしと刺さる視線の数々。ここまでモテるのも嬉しいものではない。

それに生憎今日は愛刀を持っていなかった。いつもなら確実に持っているのだが、諸事情により帯刀できなかったのだ。代わりに無銘の脇差しを持っているが、使い慣れぬ得物でこれほどの数を畳めるだろうか。


まるで何も気付いていないような平静さを保ちつつ、人気の少ない港のほうへ向かう。あり得ないとは思うが、念のため誉に連絡を入れた。彼女が返答したのを聞いて無言で切る。簡単な合図だ。携帯からSDを引き抜き割っておくのも忘れない。


それからスーパーの袋を近くの箱の上に置いて、振り返る。そうして私をまっすぐに凝視する男を見、ぞわりと背筋が凍り付いた。なぜこの男が、こんなところにいる――?

不意に背後に殺気を覚え、振り向きざまに脇差しを薙ぐ。いつもの日本刀よりも刃渡りの短いそれで、どうにか動きを制することに成功した。安堵する間もなく引き離そうと刀を持つ手に力を込め、対照的に身体から力を抜き、一気に離れようと後ろに足を踏み出した瞬間。


パンッ―――!!


「っ!!」


踏み出した足首に激しい熱を感じ、ぐらりと体勢が傾ぐ。

倒れこんだら最後、私の命はない。

そんな思いが浮かび上がり、せめて受け身をとろうとすれば、そのままぐいと身体を抱き寄せられた。同時に左腕に走る激痛。抜け出ようと身をひねった瞬間、喉に圧倒的な圧迫感を覚え息を呑んだ。

首筋には、今にも強い力を与えながら引かれようとする刀。対して私の利き腕は的確に斬られたのか、痺れて一切動かない。どうにか脇差しを掴んではいるものの、脂汗と震えにより今にも取り落としそうだった。


痛い程の緊張感の中、自分の浅はかさに嫌気が差す。彼らが近いうちに動くだろうことは予想できたはずなのに。
浅いため息を漏らせば、背後に立つ男は低い声で笑った。


「随分余裕綽々だったなァ、三番隊隊長さんよォ」

「……初めまして、ですね、鬼兵隊高杉晋助」


彼のような大物が、どうしてこんなところにいる。

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