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□五
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目を覚ましたときに視界に入った畳は、穏やかな秋の夕陽を浴びて橙色に照らされていた。拷問を受けていたころよりも重い身体を起こし、窓を振り返る。もう外は夕焼けに染まっていた。長い間眠っていたのか。


頭と腰と右手が痛い。ちらりと手を見やれば、すでに手当ては済んでいた。
熱でじくじくと痛むが、何より左手でなかったことに感謝すべきだろう。

そのとき、不意に外が騒がしくなった気がした。誰かがここを襲撃でもしたのだろうか。確認しようと緩慢な動きで立ち上がり、窓へと近寄れば。


「まだ、寝ててもらおうか」


いつの間に背後に立っていたのだろう、ぐいっと腰を抱かれ軽々と押し倒される。ろくな抵抗もできぬまま、畳に身体を叩きつけられ痛みで呼吸がとまりかけた。そのまま昨夜の続きを始めようとする奴を睨み上げれば、隻眼が妖しく微笑んだ。


「誰が、来たんです」

「さぁな。俺は確認してねェよ」

「嘘ですね。でなければ君がこうする理由がっ――、っ」

「理由が?あるだろうよ。抱きたきゃ抱く。てめェはそれを甘受するしかできねェ。おら、鳴け」


「――……っん、っ、生憎、器用ではありませんっから」

「喋ってるほうが余程器用だぜ?……やっぱ慣らしゃあ濡れるもんだな、女なんざ」

「――っ、やめっ」


「当たり前でィ、そいつだって女ですからねィ」


ここにいることが有り得ぬはずの聞き慣れた声に、ぞくりと鳥肌が立つ。彼はここまで冷たい声を出せたのだろうか。

顔を上げて姿を確認しようとも、上にのしかかる男の姿で見ることは適わない。ただ、彼の刀が、真っ直ぐに高杉の首に突き立てられていることだけはわかった。そして痛いくらいの視線が向けられていることも。


あられもない格好に呆れているのだろうか。それも仕方ないかと苦笑する。最近彼にはみっともない姿ばかり、曝しているような気がする。情けないな。

高杉がは、と笑い声をあげた。このときになっても慌てる様子はない。それどころかまた行為を始めようとしたのにはさすがに呆れた。この男の精神回路はどうなっているんだ。

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