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□五
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意識を混濁させた状態で自白剤を使われた、というのはなかなか鬼畜だと思う。が、拷問に比べればマシだ。

長期任務に当たる度、山崎君たち監察方から詳しく話を聞いていたものの、耐えられるかわずかながら不安が残る。今まで一度も捕われたことなどなかったし、幹部として拷問に対抗する手段を訓練したこともあるが、たかが訓練だ。本物とは違う。


絶叫しなかった自分を幾らでも褒めてやりたい気分だった。長時間に渡って続くそれに、加えて食事もなくなり、肉体の衰弱を感じはじめていた。拷問で受けた傷もよほどひどいものでなければ手当てはされず、じわじわと意識が混濁していく。寝ても覚めてもすべてが地続きで繋がっているような不安を覚えた。


そんな日々が一度中断されたのは、私が拷問中に胃液を吐いて気絶したからだった。目が覚めると、一番最初に目覚めた部屋で横になっていた。手錠もされておらず、片足だけ結ばれてはいたが、今までよりはずっとましだ。

どうにか上体を起こす。ぐらぐらと身体が揺れ、頭がひどく重く感じた。身体のあちこちが熱を持ち、息をするのも苦しい。

そのとき戸がほとほとと叩かれて、明るい桃色の衣を身に纏った女が入ってきた。慣れた仕草でお盆を持って部屋に上がり、その段階になって初めて目が合った。


「うわっ!!起きてたんスか!?」


大仰に驚かれはあ、と曖昧に返す。彼女はしばらく私を眺めたあと、何のためにここにやってきたのかを思い出したのか、おもむろに手を伸ばしてきた。反射的に叩き落としそうになり、しかし彼女の手が伸びる先が額だと気付いて抑える。ひんやりとした冷たい手が額を覆った。


「あちゃあ完璧に熱出てるッスねー。だから水ぶっかけるのはやめろっていったのに……」


そういえば確かに水を頭から何度もしつっこくぶっかけられた気がする。大抵意識が混迷していたから定かではないが。

額から手を離し彼女は盆を置いて、その上からお粥の入った皿とコップを取り出し、私の枕の横に置いてくれた。何事だろう。自白剤でも盛られているのだろうか。


自信はないが、彼女は恐らく来島また子だろう。ならば警戒するに越したことはない。

彼女はそんな私の緊張に気付いているのかいないのか、ほらっとスプーンを突き付けてきた。その躊躇いのない様子になんとなく神楽を思い出し、苦笑する。


「ありがとう。君が来島また子ですか?」


受け取りながら問い掛ければ、彼女は一瞬こちらを見頷きながらあっけらかんと笑った。


「そうッスよ。あ、あとこれ毒盛ってないから安心して食うッス」

「それはよかった。いただきます」


礼をしながら躊躇わずに一口食べる。ほかほかと湯気がたっていたのだから当然熱かった。目を白黒させながら水を飲んで熱さを押し流す。


「風邪をひかれちゃあ、あとはもう殺すしかなくなって困るんで、も少し生きてもらうッスよー」

「殺したら困るんですか?」

「折角真選組の幹部クラスを拉致できたんスから、情報手に入れなきゃ無意味じゃないッスか。なのにまぁあんた喋らないし」


じろ、と睨まれて苦笑を漏らす。

お粥は梅干しがちょこんとのっているだけだったが、さっぱりとしていて美味しかった。荒れた胃に優しく染み込む。ご飯最高。ああ誉の手料理が食べたい。


「それはまぁ、私も幹部ですから。君が看病しながら情報を漏らすのを待つつもりですか?」

「そんなんで教えてくれるとは思ってないッスよー。ただ全快とはいえなくても拷問に耐えられるくらいになるまで、小休止ッス。弱い身体でよかったスね!」


嫌みか。

あっさりと言い放った彼女に呆れながら、日付を尋ね、捕われてすでに十三日が過ぎていることを知る。十一月の初旬を無為に過ごしてしまった。


情報を漏らす前に早く逃げなければいけない。真選組の彼らを頼ることも適わない。というより、私はすでに除名されているかもしれないのだ。

山崎君との連絡はこの間一切とれていない。まず間違いなく土方君は除名宣言しやがりそうだ。これに関しては大目にみて欲しいものだが。

戻るにしろ、私も何らかの情報を得たい。というか情報も得ずにぼろぼろで帰ってきても門前払いされそうだ、むかつく。

けれど、運は私に味方した。彼女が私の看病をするなら、私はそれを、利用すればいい。

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