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□五
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風邪をひいたこの身体が、拷問に耐えられるようになるまで、少なくとも三日は必要だろう。今日を入れて四日。なら一日たりとも無駄にはできない。

私が黙々と粥を口に運ぶのを眺めるのにも飽きたのか、また子は部屋を徘徊し始めた。

彼女が真っ先に目をつけたのは、以前高杉が座り込んでいた座布団である。その横にはあのときのものと同じようなお猪口と、酒瓶が置いてあった。

……今気付いたのだが、よもやあの男、私が熱と痛みで呻いているのを、酒の肴にしていたんじゃないだろうな。


「あ、これ晋助様のッスねー。最近いつものところで飲んでないかと思ったらここだったんスか」


……悪趣味も極まったものだ。奴は私が是非とも捕まえてやろう。密かに誓いをたてる。


「はっまさか晋助様にお酌してたんじゃないッスよね!?それは私の役目っ、いや厳密にはまだッスけどいつかの私の役目ッスから!!とったら殺ります!!」

「とりませんし、手錠をかけられていたのに、酌などできるはずなどないでしょう……。君は随分と高杉を慕っているようですね」


かっと目を見開きながら言われて思わず呆れてしまう。

続けてそうやって問えば、お猪口を手に持っていた彼女は、ふとそれに視線を落とす。その横顔、は。


叶わない者に焦がれる、彼女のようで。

じわりと、胸が焦がれた。どうしてこう、誰かを必死に想う女人は美しく、そして愛しいのだろう。その震える瞼が、その震える唇が、紡ぐ言葉は、優しく甘く狂おしいほど拙いのだろう。


「君は、高杉に焦がれているのですか。慕う、だけでなく」


静かに言葉を口にする。振り返った女は、誤魔化そうとするかのように明るく無為に笑った。その笑みは、引きつれたように痛ましく。


「なぁにいってるんスか!あの格好良すぎる晋助様ッスよ?好きにならないわけが」

「そんな、安い感情ではないでしょう」


くいと水を口にしながら、彼女の言葉を遮る。そんな痛ましい声を聞くのはうんざりだった。ふざけて痛みを押し隠そうとする健気さが、より彼女を、あの子を思い出させて。

似ても、似つかないのだけど。

また子はお猪口を見、それからぶんぶんと頭を振って立ち上がる。きっと私を睨む表情は、けれど先ほどよりどこか苦しげだった。


「あんたには関係ないことッス。もし私を拉致っても晋助様は助けに来ないから意味ないッス、」

「一人で、そうやって誰にも話せないのは、辛いんでしょうね」

「――っ、あんたには関係な」

「ええ、関係ありません。でも、君の夜伽の相手にはなれる」


いっそ憎らしげに私を睨む彼女の手を少々乱暴に引いて、体勢を崩した彼女の髪をするりと撫でる。柔らかな茶色の髪が、大切な二人の姉弟を思い出させた。


「な、なっ何するッスか!!頭おかしいんじゃないッスか!?第一あんた女……」


ぱん、と手を叩かれて、それでも妖艶な笑みは崩さない。傷だらけで気絶しそうな身体だが、見栄を張るところはきちんと弁えていた。


「女でも、君を満足させることは可能ですよ。別に今でなくともいい」

「……っ」


はんっと鼻息荒く盆に皿をのせて出ていこうとする彼女に、最後に声をかけた。笑みを含んだ声を。


「慰められたくなったら、いつでもおいで」

「……ばっ、馬鹿にするなッス!!」


振り向いた彼女の顔は、泣きそうなくらいに歪み、そして。

愛しくなるくらい赤く染まっていた。

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