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□五
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06



それから二日経ち、身体が全快とはいえなくともある程度回復し、拷問が再開した。

久々に連れてこられた部屋で、すでに爪を失った手が机の上に固定される。

足も身体も椅子に縛り付けられ、目は白い布で覆われた。見えない視界の中、始まったそれに、無理矢理に痛覚を遮断する。呻き声すら漏らすまいと強く唇を噛み締めた。


ふと意識が戻ったのは、水をかけられたからではなく、部屋の戸が引かれた音を聞いたからだった。また気絶したのか。布団の上に身を起こそうとし、緩慢な動きしかできぬ身体に苦笑をもらす。

中に入ってきた人物を見やれば、この二日で大分手懐けたまた子が立っていた。手には救急箱とお湯の入ったたらいを持ち、その表情は窺えない。

部屋に上がり込んで彼女は私の隣にすとんと腰を下ろした。そして馬鹿にした口調で乱暴に私の衣を剥がす。


「ざまぁないッスね。偉そうな口きいたって、やっぱりあんたは女ッス」


そう呟きながら消毒液をぶっかけられて、気絶しそうなほど痛む。少しの躊躇いもないっていうのはどうなんだ。


「そうですね。私は女。でもそれの何に問題がありますか?君と同じように、私はあの中で斬り合いながら生きている」

「そんなのわかるッスよ。じゃなくて、あんたの顔には傷がない。あんたの四肢はどれも損われていない。これ、どういうことかわかるッスか?」


それは問われなくとも気付いていた。あの男が私の顔や四肢を殊の外傷つけない理由。それは彼女じゃなくともわかる。

どうせ抱くなら美しい顔、美しい肢体のほうがいい。

最終的に私は奴に嬲られ辱められそして死ぬのだろう。それは拷問が始まったときから察していた。彼が時折視姦するように眺めていたのも、また当然。


これまで女の捕虜として扱われていなかったことのほうが驚きだ。それは、あの男が私を試していたのだろうけど。

微笑を漏らしながら応える。


「高杉の温情には感謝しますよ。いずれ抱かれるにせよ、そう扱わないでもらうのは有り難いですから」

「温情なんかじゃねえッス。晋助様の同盟相手が強い女は殺さない主義だからッスよ。理由、わかりますか?」


同盟相手?

この過激派とよろしくやっていける徒党など存在したのだろうか。疑問を覚えながら首を振る。

また子は私の背中や腕の傷に塗り薬を塗っていきながら教えてくれた。


「強い女を抱けば、強い子供ができるから、らしいッス」

「――それは、また、なんというか極端な考えですね。あまりに短絡的だ」


強くなるかなどその子供の生き方によりけりだろう。確かに戦闘センスは先天的なものが関係するかもしれないが。

不意にまた子の手がぴたりと止まる。それからおもむろに温かいものが背中にぺたりとくっついたのを感じた。振り返ろうとすれば、彼女の声はいう。


「振り向くな」


黙って前を向き直す。また子は何かを確かめるかのように、背後から私を抱き締め背中に頬を押しつけているようだった。何だろう、沖田君といい彼女といい、私はまだ幼い心の持ち主に好かれるのだろうか。

また子は好きにさせることにして、ふと彼の顔を思い出し少し不安になる。土方君に反抗してなければいいのだが。

私が突如いなくなってからすでに十五日が過ぎた。二週間も行方知れずになるのは、長い間真選組として働いていて初めてだ。優しい山崎君は勿論のこと、局長も少しは取り乱してくれそうだ。


でも、もう二週間は過ぎ去った。

私は、あそこに戻ることはないだろう。


「何が」

「え?」


こぼれた言葉を聞き漏らし問い返せば、泣きそうな声が囁いた。私が彼女を堕とすに相応しい、瞬間を。

無垢な彼女は自ら与えたのだ。


「何が、何が違うんスか――!私とあんたのっ、何が!」


躊躇いも何もなかった。

私は彼女の腕を掴み自らの身体を反転させ、女の上に跨った。押し倒された彼女は悔しそうに涙を流し、乱暴に嗚咽を押し殺そうとしていた。その口を抑える手にそっと触れ、それを唇から離す。


ぽろぽろと零れていく涙、赤らんだ頬、潤んだ瞳、映る色は苦しみで。


彼女の髪を優しく撫でながら、身を屈めた。言葉ではない違うものを求める唇に、応えるために。


「……いいんですね?」


触れ合う寸前、息が交じり合うその場所で尋ねれば、ゆっくりと少女の眼は閉じられた。

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