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□五
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07



甲高い嬌声が部屋に響く。


最初にまた子を抱いてから、二日が経った。それなのに、と私は苦笑をもらす。彼女はあっさりと堕ちてしまった。

麻薬のように求めるのは、仮の慰みにしかならぬ情事。その姿が愛しく、哀れに思えて仕方がなかった。

思いの外肉付きの良い身体を優しく愛撫しながら、柔らかな言葉で慈しみ、愛で、そして身体を言葉を弛緩させる。


口が緩んだ隙に乗じて、するすると情報を引き出そうとはするものの、やはり鬼兵隊だけはある。これっぽっちの愛撫では足りないのか、有益な情報はごくわずかしか手に入らなかった。
それでも、ないよりはましな情報ではあるのだが。

傷の手当てをする名目などどこへやら、もはや情交の匂いしか残らぬ部屋の中、隣で果てた彼女の髪を撫でる。
つい先ほどの情事のせいでかいた汗が、冷気に触れて寒かった。風邪をひかぬよう掛け布団を彼女にかけて、水を一口含んだところで、戸が引かれた。


真っ先に目に入るのは、派手な色の衣。やっときたのかと嘆息する私の傍らで、飛び起きたまた子が怯えたように奴を見ていた。半裸状態の彼女に衣を羽織らせながら、振り返り男を仰ぐ。


視線が合致したところで、隻眼を嘲笑う。男の目が一瞬射殺せそうなほど鋭くなった。


「随分啼かせてもらったみてェだなァ、来島」


びくっと震えた彼女の肩を軽く撫で、部屋を出るように促した。まぁ奴の横をすり抜けるなんていうのは、今は遠慮したいところだろうが。

というより散々私たちの情交を観覧しておいて、今さら何を言っているのだこの男は。自分で抱きたければとっとと抱けばいいのだ。

すり抜けようとするまた子の腕をやや乱暴に掴んだ高杉は、噛み付くように彼女の唇を奪った。呼吸すら苦しくなるだろう口付けの後、彼女の耳元に低い声を落とす。


「てめェの仕置きは後だ。待ってな、たっぷりいたぶってやるよ」

「っ!」


頬を赤らめた彼女を突き出し、戸を閉じた男はこちらを振り返り笑った。極悪に凶悪に。


「人の女、食らうたァいい趣味してるじゃねェか」


それに応える私は、先の情事を一切感じさせぬ浴衣のまま、平然と高杉を見返した。置いてある水をまた一口含み、は、と笑いを返す。


「おかげさまで美味しくいただきました。ああ安心してください、ちゃんと彼女は躾けてありますから」

「悪趣味だな」

「君よりはましですよ。自分の女を食われてるところを観覧するなんて……、自虐趣味ですか?」


挑発するような言葉を投げれば、軽く鼻であしらわれた。そのまま部屋に上がり込んだ高杉は、おもむろにこちらへと歩を進め、そして。


「――っ!」


押し倒されたこの身。

熱い痛みを伴うのは右手の甲。


抜き放たれた刀身が、顔の真横で鋼鉄の光を湛えていた。

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