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□五
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「……ついに処分というわけですか」


右手は刀が貫通しているのか、最早痛みを痛みとして処理することすらできなかった。どくどくと体内の血液が脈打ち、垂れ流されていくのを感じる。不用意に動けば、今以上の痛みが来るだろうことは想像に容易い。

努めて冷静に問う。男の隻眼が射ぬくようにこちらを見、それから嘲笑するように唇を吊り上げた。


言葉こそないが、その視線が舐めるように私の身体を視姦していることが事実だ。ため息の一つや二つ、つきたくなったって構わないだろう。


「なぜ、こうすることは決まっていたのに、今まで男として扱っていたのですか?」


相手が動くことを制止させようと会話を求める。高杉はそれを知りながら、私のすぐ横で酒をあおっていた。余裕な態度に苛立つ。


「てめェはこっち側の人間だからな」


落ちた言葉に目を見開いた。この男頭大丈夫だろうか。


「は?」

「人斬りの目だ。あんときの殺意さえ取り戻しちまえば、てめェは際限なく斬れる」

「……は、何を馬鹿なことを。もしそうならば、私があそこにいる意味など」

「ねェよ。てめェみてェな人斬りがいるにゃああそこは小さすぎる。薄々感じてたんだろうが」


訳が分からなかった。

その言葉の意味、ではなく、なぜその心裏に気付いたのかという疑念。まさかあのときの殺意だけで?

いや、違う、そんなものは関係ない。

私は人斬りではない。むしろそれを刈り取る側の人間だと、理解しているはずではないか。目の前のこの男や神威と名乗った夜兎のような、そんな脅威を刈り取る側だと。


動揺していることをひた隠しにし、それを微塵も感じさせぬような表情で隻眼を見返す。言葉を返そうと口を開けば鋭い声が遮った。


「まさか、そんなわけねェ、なんていうつもりじゃあねェよなァ?わかってるはずだ、てめェの怒りがどちら寄りか。てめェの憎しみがどこに向いてんのか」

「何、を」

「狂気を隠して生きんのは、愉しいか?」

「――っ」


私に狂気などない。


きっと以前なら、ミツバが傍にいたあの頃なら、寸分の躊躇いなく答えられたことだろう。局長や土方君、それから山崎君や神楽たち。


そして、――沖田君が、傍にいたなら。


でもいない。傍にいない。彼らが誰一人として私の傍にいない今、私を留めるのは私しかいない。理性を保ち狂気を押し止めるのは。

例え、命を失うことになったとしても。


「っ」


不意に胸元に伸びた指を、無事な手で払えばそれを掴まれた。そのまま高杉は慣れた手つきで麻紐を取り出し、右手と一まとめにされる。そのときになって、漸く奴が来た理由を思い出した。

脚で蹴り飛ばそうとすればそれすらも軽々と受け止められ、むしろ指が柔肌をなぞっていく。怒りと羞恥で高杉を睨み付ければ、奴は嘲笑を浮かべた。


「てめェの身体に応えさせてやるよ」

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