ss
□五
9ページ/13ページ
09
元から崩れていた帯を緩められ、あっという間に衣が肌蹴られていく。肌着を身につけていない衣の中で、比較的傷の少ない胸が顕になった。冷気が柔肌を撫で、寒さと不愉快な恐怖とで鳥肌が立つ。
顔を歪めたことに気付いた奴は、悪意めいた笑みを刻みながら私の胸を揉みしだく。唇は舐めるように首筋に噛み付き、時折いたぶるように胸の頂を甘噛みした。突然触れたそれにこぼれそうになる声を必死に押し殺す。
「……っ、は、自分の女盗られたからって、浅ましい」
「悪ィが、俺は抱きたきゃ抱く。いってやるがてめェはまさに俺の好みどんぴしゃだぜ?」
「っ嬉しいというとでも?――っあ」
びくんっと身体が震えた。近いところにある奴の整った顔が、凶悪に嗤う。
男の指が秘部を覆う茂みを柔らかく撫で、す、とそれがその奥へと伸ばされる。乾ききったそこに気付いたのか、撫でていた指が消えた。脚を閉じようとするがそれすらも阻まれる。
不意にずきりと右手が痛み、何事かとそちらを見やれば、私の血がたっぷりとついた指がまた足へと伸びていった。は、え――?
「なっ、止め、――っ!!」
指が秘部を乱暴に掻き乱すその激痛に、上げそうになる絶叫を必死に押し込んで痛みに耐える。跳ねた身体のせいで突き刺さる右手から、また血がどろどろと流れていった。
痛みと火照る部位のせいで身体が熱くなる。塞いだばかりの傷が開いていくのを感じた。荒い呼吸をしながら抵抗しようと身を捩るが、乱暴に身体の下に押しやられただけだった。
「生娘みてェな反応だな。いや、生娘か」
「っ、んなわけ、ないでしょう!」
「身体は正直だぜ?」
「――っ!!」
漏れそうになる甘い声を必死に噛み殺し、奴を強く睨み付ける。馬鹿にしたような顔はけれどわずか上気し、その隻眼は妖しく光っていた。
せめて一矢報いようと、奴の意識が下へと逸れた瞬間、男の喉笛に噛み付いた。鉄のような味が口内に充満したときになって、ようやっと秘部から指が抜き出される。荒い呼吸を押さえながら喉を離す。
鋭い眼差しが交差した。そこに映るのは、情事を進ませぬことへの苛立ちか。ざまあみろ。
「凶暴な雌だな、あァ?よくあいつらを食わなかったもんだ」
「あんな野良狼食らったっていいことはなんにもないでしょうよ。なら、君みたいな大物を狙ったほうが賢い」
伸びてくる指を拒否することはできない。黙って高杉を睨み上げれば、奴の目は細まって歪んだ笑みを刻んだ。指先は顎を掴み、くいと押し上げられる。舌なめずりでもしそうなほど、物騒な笑みだった。
「惜しいな。てめェは殺るにゃあ惜しい」
「君に惜しまれてもなんとも思いませんよ。私はまた子とは違」
「――なァ、斎藤。最後の誘いだ、次はねェ」
言葉を遮った高杉のその顔は、いっそ惚れ惚れするほど悪人じみて。
これほどまでの人間が、いうにはあまりにも大きすぎる賛辞。
自身がそちら側の人間でないことを、悔やむに足る殺し文句だった。
「俺のもんになれや。俺の下で、幾らでも斬れ。てめェを妨げるもんは、どんなもんでも斬っていい。俺が許す。
おめェのその狂気、俺に魅せてみろよ」
.