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□六
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床に押し倒されたこの身体。上に跨る彼は理性を失い欲情に塗れた眼で、私を視姦する。それだけで済むはずもなく、乱暴に両手をまとめられ、抵抗する間もなく浴衣が剥かれていった。

戸惑いに似た焦りから逃げ出そうとしても、的確に深い怪我を撫でる痛みに呻くことしかできない。かちゃりという音に、両手首に手錠されたことを知った。警察が手錠をこんなふうに使っていいわけがない。

等とふざける余裕など存在しなかった。傷を庇う包帯やら絆創膏やらを取り払った今、そこを強く抉られる痛みは尋常ではない。すぐに身体は発熱し、火照りが顔を赤く染め上げる。無論そこには羞恥と戸惑いが多分に含まれていて、そんな自分が嫌になった。
どんなに逃げても、私は女。


「つっ」


何か温かいものが、傷を這うような気味の悪さに我に帰る。既に脱がされた浴衣の中、私の白に埋もれるようにして赤い舌が赤いところをそっと舐め取っていた。

理解するより早く、痛みが身体を抉る。嬌声に似た悲鳴を必死に押し殺そうと唇を噛み締めた。

私が確認したことに気付いたのか、彼の顔が持ち上がり、唇が血液を舐めとるのが目視できた。彼はちろりとその赤い舌を出して笑う。


「まじィ」

「じゃあ今すぐやめたらどうなんです、――いっ」

「消毒でさァ」


深い切り傷を舌がじわじわと嬲る痛みに目眩が起きる。同時に彼の片手が優しさの欠片もなく胸の頂きを揉みしだき、羞恥と共に触れる箇所から熱が生まれていった。


「こんな、ことしたって何の解決にもっ、んっ……ならないでしょうっ!」


必死に声を絞りだしたところで男は何も応えはしなかった。ただ黙々と私の身体にできた傷を「消毒」しているだけだ。その羞恥の極みと耐えられない痛みに気が狂いそうになる。まだ高杉の拷問のほうがましだった。


「……あっ、ん――、っ」


お互いの荒い呼吸音だけが耳につく。彼のこの家はこんなにも静かだっただろうか。

身体を伝う熱い指が下肢へと向かっていることに気付いたのは、それから何十分かが過ぎてからだった。傷から熱と血が溢れ、発熱した身体と多量の出血によって頭が朦朧とし始めた頃だった。

どんなに名前を呼んでもやめるよう叫んでも、聞き届ける気のないらしい彼は、最後の一線を越えようとしているらしかった。それを察しながらも疲れた私にはろくな抵抗もできない。

できない、本当に?

うなされているような熱の中、ぼんやりと思考が巡回する。まるで霞み掛かったように意識がはっきりとしなくなっていた。

私は本当に抵抗ができないのか?


――わからない。

わかるのは、ただもう、疲れたということだけ。

疲れた。

男として意地をはることに。女でないと貫くことに。


自分で決めて、そう選んだことなのに、苦しさは変わらない。ならばもういっそ。


君に抱かれて、女になってしまえばいいのだろうか。


はっきりしない意識の中、不意に押しあけられた脚に何か熱いものが触れた。今更ながら反応し彼を見上げれば、熱い視線がこちらを突き刺していた。

問いかけるような、瞳。

すべての結論を出そうと、唇を開いたときだった。


「おい総悟?開けんぞ」


土方君が、部屋の中に入ってきた。

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