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□六
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沈黙が耳に痛い。

明らかに犯されているというこの図式に、羞恥で涙さえ浮かんできた。頼むから凝視して凍り付かないでくれ。

目が合った瞬間、ようやく彼は行動を起こした。つまり私の上に跨ったまま同じように凍り付いていた沖田君をぶん殴り、ぐいっと私を引き上げてくれたのだ。熱を持つ腰と重い頭のせいでよろけそうになれば、あっさりと担ぎ上げられる。


「わっ、土方君?そこまでしなくても……」

「黙っとけ」


はっきりとした言葉に口籠もる。黙って身を任せるしかできない自分が情けなかった。


「腐ったもんだな、お前も」


低く吐き捨てられた言葉が、沖田君に刺さるのが目に見えるようだった。でもそれは彼だけでなく、私をも刺す。

腐ったのは、私だ。

貫き通す意志さえ、失いたくなった。


「その情けねえ面、しばらく屯所に曝すなよ」


応える声はない。

土方君の肩越しから部屋の中を覗き見れば、こちらを見向きもしないまま沖田君は座り込んでいた。

部屋を出てすぐに停められていた車の助手席に押し込まれ、はぁと嘆息を漏らしながら苦笑する。本当はそんな余力もなかったのだが、せめて体裁は取り繕うべきだった。


「ごめんなさい」


運転席に座った彼は答えることもなく、鍵を取り出して手錠を外してくれた。礼をいいながら身体の余力をかき集め、乱れた衣を整える。さすがにあの格好では見苦しすぎた。

車がゆっくりと発進し、ただ沈黙だけが突き刺さる。何も言わないことが逆に辛かった。


呆れられてしまったことだろう。所詮女だと。

しかもあろうことか真選組の一番隊隊長を誑かしたわけだ、信じられない。こう文章にすると、どう読んでも悪女にしかならないというのも笑ってしまう。

女という性から逃れようとすれば、こんな結末しか残らないのか。


ただ、強くありたいだけなのに。

君たちの隣に、ありたいだけなのに。


「……ごめん、なさい」

「謝んな。お前は別に間違っちゃいねえ」


低く染み渡るような優しい声に、堪えていたはずの涙がこぼれた。呼吸が苦しい。息をするのも辛い。

なによりも、どうしてこんなにも辛いのかがわからないことが、苦しかった。


窓の外のネオンに輝く町並みを眺めながら、涙を堪えようと浅い呼吸を繰り返す。涙を拭おうとすれば、右手の傷が目に入って、またも溢れてきた。嗚呼、嫌だな。


ぐい、と頭を乱暴に撫でられ、落ちてきた言葉に頷く。


「……寝てろ」


私が、男だったら良かったのに。

そうしたら、こんな想いを、
抱かなくて済んだのに。

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