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それからゆっくりと毎日が過ぎていった。病院の中で完璧に弱った身体を治癒していく日々は、退屈でけれど確かに落ち着いていた。久々の休暇といった体である。そうたまたま見舞いに来てくれていた山崎君に話せば、呆れたような顔をしていた。


「療養が休暇ですか……。なんか斎藤さんも来るべきところに至っちゃった感じですよね」

「でも多分山崎君も久々に休めばそう思うと思いますよ?毎日土方君の怒声を聞かなくて済むし、部下と頭を突き合わせて侃々諤々考えなくて済みますし」


実際日々のそういったことがなくなってから、私はよく眠れるようになった。先日など土方君が来たことに気付かなかったほどだ。さすがに申し訳なかったが。

真選組でよく訪れてくれるのは、局長、土方君、山崎君だった。たいてい見回りのついでらしく、慌ただしく去っていくのが日常だ。

局長にいたっては、妙というあの女性にぼこぼこにされてから来ているらしく、私以上に怪我人の風体である。最初に来たときは噴き出した。


それから坂田さんが一人だけで訪れたことがあった。

冷たい風が頬を撫で、ゆっくりと目を覚ましたときに、タイミングよく彼は扉を開けて中に入ってきた。死んだ魚のような目は相変わらずで、しかしどこか雰囲気は鋭い。一瞬誰かと思うほどだった。


「坂田、さん……、ですよね?」


「ありゃまた忘れられちゃった?そうだよ、銀さん」


軽薄そうな調子とは裏腹に、何か違和感を覚えた。ベッドの横のパイプ椅子に腰掛け、持ってきてくれたらしい菓子折りを渡される。こういう人だったろうか……?


「あの、坂田さん?」

「あんた、あいつに捕まってたんだって?」


このタイミングだったらあいつ、というのは十中八九高杉のことだろう。どうして彼が知っている?すでに情報が流れてしまったのだろうか。

懸念が顔に浮かんでいたのだろう、坂田さんはあぁと顔を上げてうなずいた。


「あんたが女だってことはもう知られてる。うちの神楽ちゃんもショック受けてたけど」

「それは、……すみません」

「別にいいんだけどね。今度あいつら連れてくるわ」

「神楽が良ければいつでも来て下さい」


そうして訪れる沈黙。いまいち彼が私の見舞いに来る理由が掴めずに、その真意を疑ってしまう。失礼だとは承知の上だが。

不意に彼は軽いため息を一つ吐くと、勝手に冷蔵庫の中から飲み物を取り出した。傍若無人だなと呆れていれば、明るい言葉が落ちてきた。


「まぁとりあえず無事でよかったわ。これからも万事屋をよろしく、三番隊隊長サン」


何かはわからないが彼は一人納得したらしい。釈然としないが、あまり話したいことではないのだろうとあたりをつけ、苦笑しながら首を振った。


「実は今回の失敗で真選組を解雇されたんです。ですから私はもう三番隊隊長ではありません」

「うっわマジで?じゃあまさかのフリーター?なら万事屋来る?」

「いえ、再就職先は見つかったので。ありがとうございます」


なんてよくわからない会話を終えてから数日後、坂田さんは本当に神楽と新八君を連れてきた。無論嘘をついていたことを神楽には咎められ、こってり金を搾り取られた。可愛くない。


そして、遂にその日がやってきた。


「忘れもんねえな?」

「ええ、問題ありません。看護師さんにもお礼は済ませてあります」

「さ、斎藤さんなんかこれ荷物重くないですか……?」

「気のせいですよ、山崎君」

「よし、壱乗ったな?じゃあ行こうか」

「……はい」


既に懐かしくなってきた、私の家へ。

可愛い部下たちと、決別するために。

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