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□六
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「……沖田君、君何をしてくださったんです」


ふと夢想を破る現実の声に顔を上げる。風呂上がりの肌蹴た衣すらむき出しに、髪をタオルで包んだ女がこちらを鋭く睨んでいた。なんだってああ扇状的な格好をしてやがるんだあいつは。襲われたいのか。


「なんのことでィ」

「背中の噛み傷です。手当ては何より助かりますが、こういったことを許したつもりはありませんが?」

「許しを請うつもりもありやせんからねィ」

「ふざけるのも大概にしていただきましょうか」


冷たく突き刺さるような声だった。逸らしていた焦点を合わせれば、向かい撃つ殺気立った眼差し。浮かぶ殺意は、彼女の美麗な顔を遥かに鋭敏に、そしてより美しく。

ぞくりと震えた。

この殺意の中に混じった女らしい戸惑いが、ひどく愛しかった。


「君は諦めたはずでしょう。諦めが悪いと良い男になれませんよ」


呆れたようにいう言葉に笑いそうになる。良い男になれない?当然だ、好きな女を軟禁しててなれるはずがない。


「良い男?そんなもんに興味はないねィ。たまに欲しいもんを欲しがっても構わないでしょう」

「他をあたってください。私を巻き込むな」

「は、なら姉上を好きになったあんたは、巻き込まなかったとでもいうつもりですかィ?」


怒気を含んだ言葉を吐き出せば、あいつは声をつまらせ目を泳がせた。その一瞬後、きっとこちらを睨む。


「……っ巻き込んだつもりはありません。少なくとも諦めはつきました」

「なら望みに応えてくれたっていいだろうが」


いった瞬間彼女の目が吊り上がり、怒声が吐き出された。そこに含まれるのは、その眼に映るのは、

苦しさ。

――なぜ?


「馬鹿なことをいうな!いい加減にしてもらいましょうか。いつまでわからないふりをするつもりです、」

「君が本当に欲しているのは、ミツバでしょう」


その瞬間、溜まっていた怒りが呆気なく理性を刺し殺した。


「――っ!!」


女らしい体躯。

曝された白い陶器のような肌、そこを赤く彩る傷の数。


「っあ、――かはっ!痛――」


桃のような薄い唇は苦しそうに息を吐き出し、戸惑いとほのかな焦りを滲ませた眼は痛みに潤む。


「つっ、何、してるんですか――!っや、やめてくださっ――、沖田君!!」


その身を包む浴衣を剥ぎながら、わずかに残った意識で思うことは、ただ一つ。

馬鹿な奴。

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