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□愚かな恋情
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「斎藤さん、山崎です」


襖越しに聞こえた声に応えれば、彼は手に何かを持って部屋の中に入ってきた。薬瓶、だろうか。

「それは?」

「あ、やっぱりすぐに目止めるんですね。どっかの暇な天人が作った薬らしいんですよ」

「それを私が調べるのではないでしょうね?」


思わず眉をひそめて尋ねると、彼は大げさなまでに首をぶんぶん横に振った。若干顔は青ざめている。また誰かに脅されているのかこの顔は。


「まさか、それくらいなら監察で調べられますよ。そうじゃなくて……」

「いつまでやってんでィザキ、早くしなせェ」


バンッと閉じたばかりの襖が大きく開かれて、沖田君が部屋に入ってきた。口元が楽しそうに緩みきっている。確実にいいことではないな。


「また君ですか、沖田君……。山崎君で遊ぶのも大概にしてください」

「でってなんですかでってェエエッ!!せめてと!せめてとにしてください!!」

「そこに大した違いはないように思いますが……。ねえ沖田く――っん!?」


いつの間にか沖田君は私の背後に回っており、彼の手には先ほど山崎君が持っていた薬瓶が握られていた。そして振り返った瞬間、口元に押し付けられたのである。


「っ――げほっ、かはっまっず……」


恐らく首謀者の目論見通りまんまと飲み込んでしまった自分を呪いながら、沖田君の手を振り払い薬瓶を叩き落とす。にやにや笑いに殺意が湧いた。どうやら死にたいらしい。


「あぁああっ沖田隊長何してんですかァァアッ!!さ、斎藤さん大丈夫ですか!?」

「安心しなせェ、大した副作用はありやせん。身体に特に害はないはずでさァ。むしろ喜っ――!!」

「ささささ斎藤さん!?」


沖田君の襟首を掴んで乱暴に引き寄せ、彼の口を奪う。わずかに怯んだ瞬間を見逃さず、その口内に液体を流し込んだ。

それから勢いよく彼を突き放す。赤い顔を見てにっこりと笑ってやった。


「不味いでしょう、それ」

「ばっ――てめっ……、だーっめんどくせェことしやがって!!!」


うなだれる沖田君を適当にいなして隣に立つ彼に声をかければ、青い顔が益々青くなっていた。引きつった笑いが痛々しい。


「はいはいぎゃんぎゃん喚いていて下さい。で、山崎君、この薬は何が起こるんですか?」

「せ、性転換薬、だそうです……」

「――は?つまり?」

「斎藤さんが男性になって、沖田隊長が女性になるっていうことです……」


……。

………つまり。


「山崎君」

「なっ、何ですか……?」

「効果が出るのはいつでしょう」

「これから一時間後、半日丸々……、らしいです」

「沖田君」

「……何にやついてんでィくそが」

「このことは他者にばれたら面倒です。ですから、明日一日一緒に過ごしましょう?」

「は?別に問題な」

「君みたいなベビーフェイスが可愛い女の子にならないわけがないでしょう!!私と一緒にいたほうがあらゆる意味で安全です」

「あらゆる意味で危険の間違いじゃ……」

「安心して下さい沖田君、君は私が守りますから」


満面の笑みで彼の手をとれば、沖田君は明らかに嫌そうに顔をしかめていた。

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