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□七
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屯所の引き戸を開けて、不機嫌さを隠しもせずに廊下を突き進む。ちらちらとこちらを窺う平隊士たちを睥睨し黙らせ、土方さんのところに向かった。
その途中、出会った顔に、思わず足が止まる。向こうも俺に気が付いて立ち止まった。
「こんにちは、沖田隊長」
「なんでてめえが、それを着てるんでィ」
対峙した男は、確か友近といったか。奴の身を包んでいるのは平隊士の衣ではなく、幹部級のつまり隊長級の俺たちが着るそれだった。
言葉に友近は一度自身の服を見やり、それからああと笑った。腹立たしいほど胡散臭い笑みが奴の顔に刻まれる。気に食わねェ。
「ご存知ないんですか。斎藤隊長、いえ、斎藤は除名されたんですよ。だからしばらくは代理の俺が隊長の名を襲名したまでです」
わざわざ言い直す意味がどこにあるのだ、腹立たしい。
舌打ち一つ残して突き進めば、通り抜けるときに奴は呟いた。
「斎藤は、よく鳴きますか?」
「――!!」
立ち止まった友近の襟首を掴んで奴を壁に叩きつけた。それでも彼は平然と笑っていて、それが余計俺の怒りを煽った。こいつに斎藤の、壱の何がわかる。
「隊長が彼女を女にしたんでしょう?知ってますか?彼女がここに戻ったとき、一度もあなたの名前を口に出さなかったんですよ」
「――黙れ」
「あれほど親しい人なのに。林は特にあなたが嫌いでしたからね、躊躇いなく聞いてましたっけ。あなたが何かしたのかと」
「――っ黙れっつってんのが聞けねえのか友近ァ!!」
聞きたくなかった。誤ってあいつを傷付けたその事実を、何も知らねえ奴の前で、認められるはずもなかった。
激昂したまま叫んでもう一度叩きつければ、強い衝撃を受けたにも関わらず、奴は俺を睨み上げてきた。その眼は、斎藤の、怒りに燃えたそれにそっくりで。
憎々しく思う。似てしまうほどあいつの側にいられるこいつが。俺よりも余程信頼されているこいつが。
ああ、……畜生。
なんで、こんなに好きになっちまったんだよ、壱。
「聞けません」
低い声が耳を打つ。暗い眼が俺のそれと相対した。そして呪咀のような言葉が紡がれる。
「俺たちにとってあの人は局長並みに大事な人なんですよっ!!なのにあんたがあの人の意志を曲げさせた。女でも強くあろうとしてたあの人の意志を、あんたが無茶苦茶にしたんですよ!!」
吐き出したその一瞬後、友近は大声で叫んだことを後ろめたく思うように視線を落とした。その声を聞き付けたのか、人が廊下へと出てきた騒音が聞こえてくる。
無言で掴んでいた襟首を突き離し、歩きだそうとしたところで響いた友近の言葉が。
「あの人から、この地位を奪ったのは沖田隊長、あなたじゃないですか」
しばらく頭から離れなかった。
誤ったのは、俺。
では、それを正さなかったのは?
「……くそったれ」
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