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□七
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01



屯所の引き戸を開けて、不機嫌さを隠しもせずに廊下を突き進む。ちらちらとこちらを窺う平隊士たちを睥睨し黙らせ、土方さんのところに向かった。

その途中、出会った顔に、思わず足が止まる。向こうも俺に気が付いて立ち止まった。


「こんにちは、沖田隊長」

「なんでてめえが、それを着てるんでィ」


対峙した男は、確か友近といったか。奴の身を包んでいるのは平隊士の衣ではなく、幹部級のつまり隊長級の俺たちが着るそれだった。

言葉に友近は一度自身の服を見やり、それからああと笑った。腹立たしいほど胡散臭い笑みが奴の顔に刻まれる。気に食わねェ。


「ご存知ないんですか。斎藤隊長、いえ、斎藤は除名されたんですよ。だからしばらくは代理の俺が隊長の名を襲名したまでです」


わざわざ言い直す意味がどこにあるのだ、腹立たしい。

舌打ち一つ残して突き進めば、通り抜けるときに奴は呟いた。


「斎藤は、よく鳴きますか?」

「――!!」


立ち止まった友近の襟首を掴んで奴を壁に叩きつけた。それでも彼は平然と笑っていて、それが余計俺の怒りを煽った。こいつに斎藤の、壱の何がわかる。


「隊長が彼女を女にしたんでしょう?知ってますか?彼女がここに戻ったとき、一度もあなたの名前を口に出さなかったんですよ」

「――黙れ」

「あれほど親しい人なのに。林は特にあなたが嫌いでしたからね、躊躇いなく聞いてましたっけ。あなたが何かしたのかと」

「――っ黙れっつってんのが聞けねえのか友近ァ!!」


聞きたくなかった。誤ってあいつを傷付けたその事実を、何も知らねえ奴の前で、認められるはずもなかった。

激昂したまま叫んでもう一度叩きつければ、強い衝撃を受けたにも関わらず、奴は俺を睨み上げてきた。その眼は、斎藤の、怒りに燃えたそれにそっくりで。


憎々しく思う。似てしまうほどあいつの側にいられるこいつが。俺よりも余程信頼されているこいつが。

ああ、……畜生。


なんで、こんなに好きになっちまったんだよ、壱。


「聞けません」


低い声が耳を打つ。暗い眼が俺のそれと相対した。そして呪咀のような言葉が紡がれる。


「俺たちにとってあの人は局長並みに大事な人なんですよっ!!なのにあんたがあの人の意志を曲げさせた。女でも強くあろうとしてたあの人の意志を、あんたが無茶苦茶にしたんですよ!!」


吐き出したその一瞬後、友近は大声で叫んだことを後ろめたく思うように視線を落とした。その声を聞き付けたのか、人が廊下へと出てきた騒音が聞こえてくる。

無言で掴んでいた襟首を突き離し、歩きだそうとしたところで響いた友近の言葉が。


「あの人から、この地位を奪ったのは沖田隊長、あなたじゃないですか」


しばらく頭から離れなかった。

誤ったのは、俺。


では、それを正さなかったのは?


「……くそったれ」

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