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□七
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私の顔が険しくなっていたのに気付いたのか、栗子は唇を尖らせ自身の不満を訴えていた。それもそうだろう、彼女が松平様をつい嫌うのは、仕事にばかりかまけていることも含まれる。そして私も今まさにその状態だった。


「仕事人間は嫌でございまする」


スパッと吐き捨てた彼女は、さっさと知り合いらしき人たちのもとへいってしまった。追い掛けるのもできずに苦笑して見送る。正直今は彼女の側にいられる気がしなかった。

先ほど声をかけてきたあの男。間違いようもなくあの声は神威のものだ。嫌な予感しかしない。


誰とも知れぬ目付きの悪い黒服の警備たち、中にいるのは神威。

ウェイターから爽やかな色のカクテルを一杯もらい、さらに考察を進ませる。いや、本当はわかっていた。そうやって酔ったことにしてしまおうと思っていることなど。

ちら、と背後の窓硝子を見やれば濃紺の空の中、ネオンが瞬いていた。遠い下を見やれば時折見える真選組の車の数々。それは気のせいでなければ、確実にこのビルに集まっているように見える。


「冗談じゃあないんだな……」


ならば早々に人を誘導しなければならない。いや、そもそも土方君は神威がいることを知っているのか?

ホールへと視線を向けると黒服たちの様子がわずかに変わった。それも確実に良くない方向に。


グラスを乱暴にテーブルに置き、騒いでいるらしい栗子のもとに駆け付ける。私の表情に気付いたらしい彼女は顔を青ざめさせていた。賢いことだ。


「どうなさったんでするか!?」

「ンンーあれ栗子ーこのおねいさん誰よー?」

「超絶美女じゃね?何食えばこうなんの?」


騒ぎ立てる栗子の友人たちをちらりと見やり、にこりと笑った。二人の友人たちが顔を赤らめ息を飲んだのがわかったが、気にする余裕はない。


「お楽しみのところ申し訳ございません。栗子様とご一緒にこちらに来ていただけますか?」

「べっ、別にいいっすけどぉ?」

「それくらいいいってぇー」


栗子の友人ならば要人対象になる。彼女たちも促せば栗子は私に小さな声で尋ねてきた。


「一体何事なんでするか?」


不安そうな顔をさせている自分に舌打ちの一つでもしたくなる。これでは駄目だとわかっているくせに、私は何をやっているんだ。

だから平生に微笑んで、栗子の頬を軽く撫でる。不安を感じさせてはいけない、それを取り除けるようでなければ。

でなければ、私は何のためにこの子の傍にいるんだ。


「大丈夫、あなたのことは絶対に私が守ります」


そう言った瞬間だった。あと少しでホールを出られるというそんなまさにあと一歩。


パァンッ――!!


突如響いた発砲音に一瞬でホールが静まった。倒れる音はしない。

ここで、倒れるわけにはいかないから。


「――っ壱様!?壱様っ、壱様!!!」


撃たれた右の太股を庇いながら、悠然と立つ黒い着流しの男をまっすぐに振り返る。ああ、この男、この男だ。


「よォ、元気そうじゃねえか、嬢ちゃん」

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