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□七
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鋼鉄の弾き合う痛い音が、ホール内で高くこだましていた。その中で不自由に不細工に踊る。
どれくらいの時が経ったのだろう。
あふれ出る汗を軽く顔を振ることによって弾き飛ばしながら、視界を確保する。目にでも入ったら終わりだ。
右脚を庇うこともなく強引に動かして刀を薙ぎ払う。鋭い斬撃を片腕でいなした男は、大きく体勢を崩すこともなくそれから身体を遠ざけた。
深追いすることなく速やかに刀を収め、相手をねめつける。今でこそ刀しかないように見えるが、あの男が私の右脚に傷を負わせたのは銃だ。ならば隠し持っていることに間違いはない。
同じように相手も私の得物を判断しかねているようだった。先ほど持っていた小太刀の印象が強いのだろう、窺う視線はそれを収める腰へと向けられる。まだ他に持っている、または小太刀との両刀遣いを恐れているのだろうか。
恐らく後者が正解だ。もし私のこの斬撃が二波同時に来るのなら、正直耐えるのは厳しいだろう。私も嫌だ。
二刀流の訓練は別段行っていなかった。両刀遣いになるとあらば、すなわち防御を捨てることに繋がりやすい。
ならば、と愛刀の鍔を鳴らして私は片足を踏み出し駆け出した。
ならば、この刀のもとに、斬り捨てるだけ。
二刀にする必要など皆無。
素早く斬り付けたそれを難なく受けた男は至近距離で視線をくれた。その一瞬をついて男の急所へと蹴りを見舞う。
崩れ落ちそうになる男の手が懐に入り、銃を抜き放とうとするのを刀で引き止めた、その瞬間。
パァンッ――!!
「っ!?」
鋭い撃音に身体が跳ねた。とっさに背後に飛びずさり周囲を見渡せば、私たちを囲むようにして立つ男たちは、皆一様にその傘をこちらに向けていた。
立ち上る硝煙は一つ。
「おいおい神威さんよ、それはちょっと約束違反じゃねえか」
離れたところにいた男は苦笑しながら立ち上がった。彼が取ろうとしていたらしい銃が、木っ端微塵に砕けていた。誘爆するようなことはなかったようだが、その図はあまりにも無惨である。
撃ち放った男は正確には神威ではなく、隣に立つ大男だったらしい。彼もまた隻腕で器用に傘を肩に担ぎ、くっと眉をひそめて神威を見やっただけだった。
「だってさ、つまんなくなってきたんだよね。俺も手伝ってあげるよ」
「ご冗談を。邪魔の間違いでしょう?」
「他人の斬り合いに乱入すんのはどうなんだ、え?」
不愉快なことに私も目前の男と同じ思いだった。階段に腰掛けていた神威は立ち上がり、おもむろにホールへと降り立つ。
否応なく突き刺さる殺意に舌打ちが漏れた。迷惑な。
汗を拭い、男に向き直る。神威の存在は無視する他ない。正直彼と戦う余裕など残されてはいなかった。
いわゆる満身創痍。
またの名を。
「あんまり邪魔しないからさ、楽しんでヨ、壱」
絶体絶命、という。
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