ss

□七
14ページ/24ページ

14



ことの起こりは何だったか。

男が私を撃ち、ホールにいた一般人がパニックに陥ったこと、だろう。

私は何をしなければいけない?

栗子を守らなければいけない。

本人はどこに?

私の携帯を預け真選組に連絡するように促し、外へ。

それは守ったといえるか?

――わからない。だが、少なくとも敵は彼女に興味をもたない。

なぜ。

私というモルモットが体よく動いているから。

それはいつまで続ける?いつまで続く?

いつまでも。私が男を殺すか男が私を殺すかまで、いつまでも。

違うな、続けられるのか?

続けるさ。

いや、違う。

なにが違う?

お前はこいつを殺せるか?


「―――っ!!」


斬撃を渾身の力を込めて弾き返せば、後ろから迫ってきた手刀を避け切れず鈍い音が響いた。肋骨でも折れたか。


「駄目だよ壱。油断し過ぎじゃないの。背後に気を配れないなんて侍としてどう?」


よろけることを許さずに神威から一歩離れようとすれば、左手首を強く捕まれた。刀がカタカタと音を立てる。
は、と笑う私の顔はさぞや青いことだろう、洒落になっていなかった。


「失格、でしょうね」

「まさか負ける気じゃあないよね。俺、弱い奴には興味ないんだ」

「知ってますよ」

「知ってるなら勝ってもらわなきゃ」

「邪魔をしたのは君でしょう」

「それもそうだ。でも、壱。負けるなんて許さないよ」


にこにこと笑うその胡散臭い顔と比例して強まる手の力に、顔が強張る。刀が否応なく音を立てて手から滑り落ちるその瞬間。


「――へえ」


右手に構えた小太刀で、離れ行く彼の右腕を斬り付ければ、赤い鮮血が舞い散った。

その場の空気がより鋭く冷徹に昇華していく。視界の隅で男が刀を握り直すのを捕えたが、私は神威と一歩離れたその位置から足を動かせずにいた。


その、目。

青い青い双眸、純真な妹のそれとは似ても似つかぬその眼差し。

ぞわり、と背が凍った。


にこりと愉しそうに刻まれた笑みから、目を逸らせなかった。


「久々に見たナァ、俺の血。やっぱり壱は面白いね」


にこにこと、笑う男のあまりに凄惨な笑みに、血の気が引く。逃げても無駄だ、わかってる、私には適わない。こんな男一人で手間取っている私に適うはずがないのだ。

でも、と知らず唇は笑みを刻む。どうしてこう、戦いの場に身を置くとなると、自身を制御できなくなるのだろう?

でも、私は彼を傷付けた。彼に血を流させた。モルモットだろうと足掻くことはできるのだ。

私の笑みを見て、ハハッと神威は笑う。胡散臭い笑みに最大限の敬意を込めて。


「ああ、ぐちゃぐちゃにしてやりたいよ、壱」

.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ