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□七
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ことの起こりは何だったか。
男が私を撃ち、ホールにいた一般人がパニックに陥ったこと、だろう。
私は何をしなければいけない?
栗子を守らなければいけない。
本人はどこに?
私の携帯を預け真選組に連絡するように促し、外へ。
それは守ったといえるか?
――わからない。だが、少なくとも敵は彼女に興味をもたない。
なぜ。
私というモルモットが体よく動いているから。
それはいつまで続ける?いつまで続く?
いつまでも。私が男を殺すか男が私を殺すかまで、いつまでも。
違うな、続けられるのか?
続けるさ。
いや、違う。
なにが違う?
お前はこいつを殺せるか?
「―――っ!!」
斬撃を渾身の力を込めて弾き返せば、後ろから迫ってきた手刀を避け切れず鈍い音が響いた。肋骨でも折れたか。
「駄目だよ壱。油断し過ぎじゃないの。背後に気を配れないなんて侍としてどう?」
よろけることを許さずに神威から一歩離れようとすれば、左手首を強く捕まれた。刀がカタカタと音を立てる。
は、と笑う私の顔はさぞや青いことだろう、洒落になっていなかった。
「失格、でしょうね」
「まさか負ける気じゃあないよね。俺、弱い奴には興味ないんだ」
「知ってますよ」
「知ってるなら勝ってもらわなきゃ」
「邪魔をしたのは君でしょう」
「それもそうだ。でも、壱。負けるなんて許さないよ」
にこにこと笑うその胡散臭い顔と比例して強まる手の力に、顔が強張る。刀が否応なく音を立てて手から滑り落ちるその瞬間。
「――へえ」
右手に構えた小太刀で、離れ行く彼の右腕を斬り付ければ、赤い鮮血が舞い散った。
その場の空気がより鋭く冷徹に昇華していく。視界の隅で男が刀を握り直すのを捕えたが、私は神威と一歩離れたその位置から足を動かせずにいた。
その、目。
青い青い双眸、純真な妹のそれとは似ても似つかぬその眼差し。
ぞわり、と背が凍った。
にこりと愉しそうに刻まれた笑みから、目を逸らせなかった。
「久々に見たナァ、俺の血。やっぱり壱は面白いね」
にこにこと、笑う男のあまりに凄惨な笑みに、血の気が引く。逃げても無駄だ、わかってる、私には適わない。こんな男一人で手間取っている私に適うはずがないのだ。
でも、と知らず唇は笑みを刻む。どうしてこう、戦いの場に身を置くとなると、自身を制御できなくなるのだろう?
でも、私は彼を傷付けた。彼に血を流させた。モルモットだろうと足掻くことはできるのだ。
私の笑みを見て、ハハッと神威は笑う。胡散臭い笑みに最大限の敬意を込めて。
「ああ、ぐちゃぐちゃにしてやりたいよ、壱」
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