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□七
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「……なんで、あんたが泣くんでさァ」


泣きたいのはこっちでィと呟く声の、あまりの悲痛さに胸が痛む。蓋をしたはずの過去が、感情が、今にも溢れだそうとしていた。

それを止めるものなど、もう何もないから。


「ごめん、……ごめんなさい」

「謝んな。惨めになる」

「ちが、違う……、総……、ごめん」


彼が一番隊隊長になったときから、数えるほどしか呼んでいなかった懐かしい名前。総悟、総。

ここまで、追い詰めたのは、私でしょう?

ずっと、ずっと嘘をついていたのは、私。


男のように強くなろうと望み続けた嘘つきの私の、本当は。


「ずっと、好きだったんだよ、総」


始まりはどこだろう?どれくらい昔のことだろう?

私が隠したかった感情は、あの男と出会うよりずっとずっと前の記憶。

親友の弟を好きになる、自分の最低さに気付いたあのとき。
それでもいいと、肯定する術を知らなかった。ただただミツバという大切な友人から、何よりも大事な肉親を奪うことの畏れ多さしかわからなかった。

だから嘘をつくことにした。自分に、みんなに。

きっとミツバは初めからわかっていたのだろう、彼女は私の馬鹿げた告白を、笑って受け入れてくれたのだ。ミツバを守れるような男になる、そういった私を抱き締めて。

ごめんね、とそう囁いた。

それがどういう意味だったのかはわからない。肉親を譲れない彼女自身のことを謝ったのか、私にそうさせたのだと思ったのか、わからないけれど。

その響きは痛いくらいに耳の中にこだまする。しつこく繰り返されて、私はそれから力を得て蓋をした。ミツバの優しさと一緒に蓋を。


「何、いって……」

「ごめん、ごめん……、ごめんなさい、総……」

「わけ、わかんねえ……」


馬鹿だ。謝ってそれで終わることじゃないのに。馬鹿みたいにこぼれ落ちていく涙を堪え切れず、顔を歪ませながら泣いていた。

手を離すこともできぬまま、縋るように泣いて。子供みたいだと自分が憎らしくなる。

毅然とした私はどこにいった?けろりと笑って謝罪してしまうような憎らしい私は、一体どこに?


「なんで、いってくれなかったんでィ」

「いえません、よ。ずっと、黙ったまま死ぬつもりだったんですから」


シーツに顔を押し付けて涙を乱暴に拭い、にこりと笑っていった。
それを一瞬傷ついたように見た彼は、私の手を離して、その指で目もとを拭ってくれた。似合わない仕草に笑いそうになる。


「馬鹿」

「ガキみたいな悪口いわないでください」

「俺が」


鋭い声にびくりとする。赤い瞳を窺い見れば、傷ついたようにその色は揺れていた。


「俺が、傷付いてるって、本当にわかってんですかィ?」

「……ええ」

「わけ、わかんねえよ。今まで、なんで……なんでこん、な、っ馬鹿、みてえ……」

「死ぬって、わかっていたから」


あまりに哀れで、見ていられなかった。

私を好きになった君は、かわいそう。


彼から視線を逃がし、何にもない天井へと泳がせる。わかっていたことを、こんなに平生に語れるのはどうしてだろう?

きっと、認めることが、できたから。


「それがいつにせよ、死ぬって、わかっているのに、ミツバから君を引き離すなんてできなかった。……あぁもちろん、ミツバが死ぬからじゃなくて、私が死ぬからですよ?」


くすりと笑いながらいう。

わかっていたことを、決まっていたことを。きっとこうなるだろうと、予測し続けていたことを。


「きっと、私は明日死ぬ」

「だから、ね、総。お願いです」

「冥土の土産ということで」


「私を、抱いてくれませんか?」



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