ss

□七
20ページ/24ページ

20



「……なんっ、でそうなんでィ!?」

「いけませんか?」

「ったりめえだろ!!馬鹿にすんのも大概にしやがれ!!」

「自己中だって、いうのでしょう?わかってます、君にとって忘れられない人になることくらい。でも、私は君にだけは忘れられたくない」

「んのっ……違ェ!!忘れる忘れないじゃねえ、なんで死ぬのが前提なんでィ!?」


いつになく取り乱す彼の言葉に、微笑みながら指を伸ばす。それを乱暴に絡み取られて、おもむろに唇が重なった。

と、そのまま身体の上に重みがのしかかる。肋骨の痛みにわずかに喘げば、彼は気遣うようにその身を離してくれた。


怪我人に気遣う心はまだ残っているようだった。ありがたい。


「なんで、そういうこというんでさァ……」

「癖、じゃないですか?」

「当たり前みてェに応えんな馬鹿」


軽いやりとりにくすくすと笑う。彼はそれを苦しそうに見ただけだった。楽しんでいるのは私だけか。


「……死ぬなよ」

「善処します」

「ふざけんな、この馬鹿!」

「ふざけてません。善処したいのが本音ですから」


沖田君は深いため息をついて離れていった。そのままいってしまうような気がして、思わず手を伸ばす。それはすかることもなく彼の腕を確かに掴んだ。


「沖田君……」


浅ましいな、と嫌な思いが胸を焦がす。こうやって引き止めて、どうあっても彼のものになりたくて。この少年を苦しめるだけだって、わかっているくせに。

最低だとわかっていた。逃げ続けていたくせに、まるで手のひらを返すように応えるなんて。

でも、行かないで。

この手を、振り払わないで。


「そ、う……」


こんなのは自分じゃないとわかっているのに止められなかった。押さえ込んでいた蓋は開け放たれて、苦しいぐらいの想いが胸を締め付ける。再びじわりと涙さえ滲んできたころ、彼はようやく振り返り、そして。


「っ」

「本当に、いいんですねィ?」

「……はい」

「止めろっていわれても、止まりやせんから」

「ええ――っん、ぁ」


これほど求められたとわかるような愛撫は、初めてだった。


私と同じように誰かを斬り殺したその指先で、纏った衣を早急に緩ませ肌蹴させ、傷痕を一つ一つ確かめるように撫でていく。まるで私の痛みを知るかのように。

不意に唇が重ねられ、甘い舌が絡み合う。貪るような口付けに何度も嬌声を交えて喘げば、それにあわせて指先は二つの頂を弄んだ。


「んっ、……は、ぅ、……っ」

「声、……聞かせろィ」


低く囁いた声と共に、一際鋭敏なところに触れられて、声にならない嬌声を上げる。それはどう聞いても完璧に女の声だった。

そして、それが嫌じゃなかった。


「っ、ふぁっ……、おき、たく……っ」


あんなに憎んだ女の性を、暴いたのが彼だから?幼少期から愛し続けたこの子だから?

擦れた声でそう呼べば、彼はわずか汗の滲んだ顔をようやく離し、にやりと笑って問う。


「総、って呼んでくれねェのかィ、壱?」

「っ、馬鹿ですか、君はっ」

「嫌じゃねえくせに」

「……ムカつきます」


くすくすと笑い合いながら、あとはもう抱かれることだけで精一杯で。およそ彼らしくない優しい声と、そこに滲んだ哀しみに気付かぬフリをして、私たちは愛し合った。

悪夢を見ることもなく、ただもう彼だけがそこにいた。私のそばに。



.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ