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□七
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「……なんっ、でそうなんでィ!?」
「いけませんか?」
「ったりめえだろ!!馬鹿にすんのも大概にしやがれ!!」
「自己中だって、いうのでしょう?わかってます、君にとって忘れられない人になることくらい。でも、私は君にだけは忘れられたくない」
「んのっ……違ェ!!忘れる忘れないじゃねえ、なんで死ぬのが前提なんでィ!?」
いつになく取り乱す彼の言葉に、微笑みながら指を伸ばす。それを乱暴に絡み取られて、おもむろに唇が重なった。
と、そのまま身体の上に重みがのしかかる。肋骨の痛みにわずかに喘げば、彼は気遣うようにその身を離してくれた。
怪我人に気遣う心はまだ残っているようだった。ありがたい。
「なんで、そういうこというんでさァ……」
「癖、じゃないですか?」
「当たり前みてェに応えんな馬鹿」
軽いやりとりにくすくすと笑う。彼はそれを苦しそうに見ただけだった。楽しんでいるのは私だけか。
「……死ぬなよ」
「善処します」
「ふざけんな、この馬鹿!」
「ふざけてません。善処したいのが本音ですから」
沖田君は深いため息をついて離れていった。そのままいってしまうような気がして、思わず手を伸ばす。それはすかることもなく彼の腕を確かに掴んだ。
「沖田君……」
浅ましいな、と嫌な思いが胸を焦がす。こうやって引き止めて、どうあっても彼のものになりたくて。この少年を苦しめるだけだって、わかっているくせに。
最低だとわかっていた。逃げ続けていたくせに、まるで手のひらを返すように応えるなんて。
でも、行かないで。
この手を、振り払わないで。
「そ、う……」
こんなのは自分じゃないとわかっているのに止められなかった。押さえ込んでいた蓋は開け放たれて、苦しいぐらいの想いが胸を締め付ける。再びじわりと涙さえ滲んできたころ、彼はようやく振り返り、そして。
「っ」
「本当に、いいんですねィ?」
「……はい」
「止めろっていわれても、止まりやせんから」
「ええ――っん、ぁ」
これほど求められたとわかるような愛撫は、初めてだった。
私と同じように誰かを斬り殺したその指先で、纏った衣を早急に緩ませ肌蹴させ、傷痕を一つ一つ確かめるように撫でていく。まるで私の痛みを知るかのように。
不意に唇が重ねられ、甘い舌が絡み合う。貪るような口付けに何度も嬌声を交えて喘げば、それにあわせて指先は二つの頂を弄んだ。
「んっ、……は、ぅ、……っ」
「声、……聞かせろィ」
低く囁いた声と共に、一際鋭敏なところに触れられて、声にならない嬌声を上げる。それはどう聞いても完璧に女の声だった。
そして、それが嫌じゃなかった。
「っ、ふぁっ……、おき、たく……っ」
あんなに憎んだ女の性を、暴いたのが彼だから?幼少期から愛し続けたこの子だから?
擦れた声でそう呼べば、彼はわずか汗の滲んだ顔をようやく離し、にやりと笑って問う。
「総、って呼んでくれねェのかィ、壱?」
「っ、馬鹿ですか、君はっ」
「嫌じゃねえくせに」
「……ムカつきます」
くすくすと笑い合いながら、あとはもう抱かれることだけで精一杯で。およそ彼らしくない優しい声と、そこに滲んだ哀しみに気付かぬフリをして、私たちは愛し合った。
悪夢を見ることもなく、ただもう彼だけがそこにいた。私のそばに。
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