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□七
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03



「二日連続オールナイト年越しパーティー、ですか?」


なんともネーミングセンスを疑うようなタイトルを喜色満面の栗子にいわれ、一瞬彼女が何をいっているのかわからなかった。

新年があと三日に迫るという日、松平宅へと呼び出されてすぐに彼女はそのタイトルを口にしたのだった。

ぽかんとしながら問い返せば、目の前のソファーに座るよう促される。勢いに負けて腰掛ければ彼女は嬉しそうに話しだした。


「そうでございまする。カウントダウンのオールは誰でもするでございましょう?ところがこちらは二日前から騒ぎ倒そうという趣旨のものなんでございまする。それで、私も是非参加したいのでございまするが……」

「松平様がお許し下さらない、と?」

「はい。そこをどうにかあなたにやってもらいたいのでございまする」


真剣な顔でぐいと迫る栗子には申し訳ないが、いくら私でもそれは無謀というものである。そもそも雇ってもらっている身の上で、雇い主にけちをつけることなどできるものか。

思わず深いため息をつけば、彼女の眉がわずかに下げられた。彼女のような歳ならそういうことも経験したいものだろう。その気持ちはわからないでもないが、私が十二で酒に手を出すのとは多少話が変わってくる。


「栗子様、もし君がこれに参加するとなると、私がどういう動きをするかわかりますか?」


卓上に置かれたチラシを指差しながら問えば、え?と不思議そうに聞き返される。


「わかりませぬ」

「私もこれに参加しなければいけなくなります。参加、というより同伴でしょうか。けれど君は私が隣にいて、このパーティーを楽しめますか?」


淡々と言葉を重ねてそう問えば、けれど私の予想とは大きくかけ離れた答えが返ってきた。


「楽しめまする」

「――……は?」


聞き間違いだろうかと彼女を見れば、栗子はにっこりと微笑みながら私の手をとった。少女らしい滑らかな指に武骨な指が握り締められるのは、どこか違和感を覚えざるおえない。


「栗子様?言い間違いですか?」

「そんなものではございませぬ。私はあなたとこのパーティーを楽しみたく思っているのでする。駄目でございまするか?」


きらきら期待の混じった瞳に言葉が詰まる。そも、そこまで彼女に気に入られるとは思っていなかったのだ、大声で聞き返さなかっただけ褒めてもらいたい。

苦笑しながら手を離すように促そうとすれば、その声に被せるように彼女は柔らかな声で呟いた。


「壱様はご存知ないのでしょうが、あなたの顔色は悪うございまするよ。ろくに眠っていないのではございませぬか」

「いいえ、そんなことはありませんよ。私は良くしていただいていますから」

「壱様!」


びしっと鋭い声で名前を呼ばれ思わず背筋を伸ばす。栗子は目を吊り上げてはっきりと言い切った。


「あなたは休まなすぎるのでございまする。明日一日はゆっくり休むこと、それから明後日のパーティーに私をエスコートすること。無論父様の意見はひねりつぶしてもらいまする」

「く、栗子様?」

「壱様、返事はイエス以外受け取りませぬ」


厳しい口調ととてもじゃないが実現不可能そうな言葉に、思わず浮かんでいた笑みが引きつった。どうしてだろう、いつもなら彼女くらいの少女なら簡単に零落できるのに。

断れそうにないなんて。


「……栗子様には、適いませんね」


引きつった頬を緩めて、柔らかく笑う。少しだけ戸惑ったような彼女が愛らしく、握られたままの白い指先に小さな口付けを落として、茶目っ気たっぷりに笑んだ。


「わかりました、お嬢様。仰せのままに」

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