novel2

□君を選んだわけ
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「富樫よ今日からわしの頭磨きはもうええぞ」
「えっ?」
青天の霹靂ってこのことだよ…。
「お前ももう卒業じゃて色々あるじゃろうからのぅ」「頭磨き…誰がやるんすか?」
「元々は鬼ヒゲらにやらせとったからのぅ」
「そうっすか…じゃあ失礼します」
俺はわざとそっけなく答えて塾長室を後にした。
なんだよ!冗談じゃあねぇよ!前みたいに鬼ヒゲにやらせりゃあいいってか?俺の磨き方が一番いいとか言っておいて誰でもいいんじゃねぇか!塾長のアホ!
「…なんか俺だけが浮かれて馬鹿みたいじゃ…」
俺はなんか悲しくなって窓から空を見た。
「富樫、今日は塾長いいのか?」
桃が尋ねてきた。
「ああ、俺はお役ごめんだからな」
「ふ〜ん」
「卒業準備しろだってよ」大体卒業準備たって毎日そんなにすることねぇよ。
「桃は進学だっけ?」
「まあな、俺は国を動かしてみたいからな」
「相変わらずスケール違うなお前ならできそうな気がするぜ!」
俺は冗談抜きでこいつなら総理大臣ぐらいになるんじゃねぇかと思った。むしろなって欲しい気さえした。「なあ富樫、一緒に目指さないか?」
「はい?」
何を言っとんじゃこいつは、呆れるぜ。
「誘う相手おかしいじゃろが!」
俺にそんなことできるわけねぇよ。
「俺が頂点に立った時隣にお前にいて欲しい」
「…なんで俺なんだよ」
「まあ、考えといてくれ」そう言って桃はさっさと行ってしまった。
卒業後の自分の進路なんて考えてなかったのに毎日の頭磨きは下ろされるし桃にはあんな事言われるし俺は昨日から頭を混乱させられてばっかりだった。
「塾長は今頃教官達に頭磨きしてもらってんのかなあ?」
俺は気になって塾長室を覗きに行ってみた。
「あれ?」
塾長が自分で自分の頭磨いとる…。
「こりゃ!窓から覗いとるんは誰じゃ!?」
ばれた!俺は慌てて逃げようとした。
「富樫か?」
「うっ!すんません…」
「どうしたんじゃ?」
「塾長、頭磨きどうしてるのかなあ?と気になりまして…」
バツが悪くなって頭をかきながら答えた。
「そうか」
「俺、失礼します!」
「これっ!待たんか」
踵を返して逃げ出そうとした俺の背中に塾長の声がかかる。
「まあ、そう逃げんと入らんか?」
「あっ、はい」
俺は表に回って中に入った。
「失礼します!」
学帽をとって頭を下げる。「なんじゃ、せっかく嫌がっとった頭磨きを解放してやったのにまた来おったか?」
「嫌じゃねぇ!」
そりゃあ最初はそうだったけど…。
「頭」
「ん?」
「頭…何で自分で磨いてたんすか?」
「う〜む、鬼ヒゲらに磨かせたがどうもなぁ」
塾長は禿頭を撫でる。
「そりゃあそうだ!教官達とは愛情の込め方が違うんだよ!」
俺はイライラして言った。「がっはっは!」
「何でけぇ声出して笑ってんだよ!」
「やっぱり富樫はええのう…初奴め!」
「はっ?」
何言ってんじゃ、このオッサン…。
「富樫よお前は随分わしの事が好きなんじゃな!」
「…っ話飛び過ぎだぜ!」なんちゅう恥ずかしい事を平気で…。
「真面目に言うから良く聞けい!」
「うっ!」
窓ガラスが割れそうなデカイ声で叫ぶ。
「富樫よ、わしの傍におらんか?」
「目の前にいますけど…」「いや、わしが死ぬまでじゃて」
わしが死ぬまでって殺しても死なないだろうに…ってどういう意味だ!?
「わしの秘書をせんか?」「ええっ!?」
「嫌かのう?」
「そうじゃねぇ…けど…なんで俺なんですか?」
桃といい塾長といいもっとそういうのに相応しい人間がいるはずだぜ。
「お前ちょっとも自分がわかっておらんな」
「わかってるから何で二人が俺なのかわからんのじゃ!」
「桃か?」
俺が二人って言っただけで塾長は察っしちまった。
「うん…一緒に行かないかって言われた」
「お前はどうしたいんじゃ?」
「俺は…」
「桃と行くかわしと残るか…それとも別の道を行くか」
迷いながらも俺の腹は決まっていた。
「貴方がいい、貴方と一緒が」
「だそうだぞ、桃よ」
「…そうか非常残念だ」
「桃っ!?」
塾長室の天井裏から桃がヒラリと降りてきて俺は心臓が止まるかと思った。
「てめぇら!グルになって俺を騙したんか?」
俺は真剣に悩んだんだぞ!「いや、俺も塾長もお前に着いて来て欲しいと思った」
「そういうことじゃ、桃よ富樫は自分でわしを選んだんじゃから文句を言うでないぞ」
「納得行きませんよ、毎日富樫を独占しておいて…」「だから解放したじゃろうが?」
「最後だけじゃないですか…まさか頭磨き以外にも変なことさせてないでしょうねぇ?」
「馬鹿もんがっ!!教え子にそんなことはせんわい!」
「あのよぅ、やっぱり俺な理由がわかんねぇんだけど」
俺は二人がわけのわからない言い争いを初めたところに割って入る。
「富樫と一緒にいると何でもできるし何者にも決して負けない力を与えてくれるからだな」
桃それは大袈裟だぜ…。
「ここ一番の幸運の女神じゃわい!うわっはっはっ」塾長…女神って…。
「まあ、富樫はわしの秘書決定じゃから今日からしっかり勉強して進学せい!」「勉強!?」
嘘だろ…。
「帝大卒のわしがしっかり教えてやろう!!」
こうして俺の塾長秘書への道が初まった。
「富樫、嫌なら俺のところに何時でもこいよ」
「桃んとこ行っても勉強じゃろうが!?」
 

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