過去編

□03
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カツカツと響く足音。

リズムの違う足音が徐々に近づいていく。

メフィストの姿が見えると、耐えきれなくなったのかレイナは一緒にいた藤本を構わず、駆け足で彼の元に向かう。

その胸に飛び込んで、皺になるのではないかと思うほど、服の裾を強く握った。

「…おっと☆大丈夫ですか?すみません、辛い想いをさせてしまって…。」

顔を上げずただ首を横に振るレイナに笑みを向け、優しく頭を撫でる。

160cm程しかないレイナは、メフィストと比べれば、随分小さい。

膝裏まである彼女の髪が、ゆらりと揺れる。


…審議の結果、レイナの処分はメフィストの監視下の元、生かされることとなった。

だが、あくまで今の時点ではの話であり、彼女の悪魔としての覚醒の兆しがあれば、即時排除される。

とてもではないが、いい条件ではない。

「メフィスト。」

藤本に名を呼ばれ、メフィストはそちらに目を向ける。

「本気なのか?」

主語のないその問いの意図をしるメフィストは『ええ』と小さく返答した。

「レイナは人として育てます。」

「悪魔のお前が、まともに何かを育てられるわけねぇだろ。」

「貴方がそれを言いますか☆」

藤本はそんなメフィストに半ば呆れ、ため息を吐き出す。

こんな子どもに何を必死になっているのか。

「いかれてんじゃねえか。」

まだ成人すらしない少女に、メフィストほどの上級悪魔が自ら契約を持ちかけたなど。

初めてその話を聞いた時は素直に驚愕したものだ。

まだ幼さの残る少女。

これからの人生、まだ選択肢はあった筈なのに。

たった1つの理由で、

魔神の炎を移植されているというたった1つの理由だけで、

見知らぬ大人たちに罵倒され、

蔑まれ、

彼女はどんなに、辛い想いをしているのだろう。

脅え、メフィストにしがみつく彼女。

メフィストはやんわりと彼女のその手をとり、目線に合わせ、身を屈めた。

「そんな顔をしては、可愛い顔が台無しですよ?」

少し眉を下げて笑い、手袋越しにレイナの頬を包み込む。

まだ目に涙を溜める彼女は、にこりともせずメフィストをジッと見つめる。

「帰りましょう、レイナ☆」

そうメフィストが声をかければ、まるで魔法のように彼女の顔から涙が消える。

ほんの少し笑みを見せ、小さく頷く。


手を繋いで歩く2人の後ろ姿を見送って、藤本は苦笑いする。

無愛想なそれはまるで、お互いに喜びを分かち合う、本当の親子のようだと思った。





これから2人歩む
(きっと大丈夫だと、貴方は私の手を握り締めた)


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