過去編

□06
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人気のない木陰で、ノートにペンを走らせた。

たった1人静かな場所。

それが妙に心を落ち着かせてくれた。

一通り書き終えて一度伸びをし、肩を回す。

今日受けなかった、悪魔薬学の授業の内容。

最近祓魔塾へ通わないレイナは、こうして1人出られなかった分を補っていた。

何故授業に出ないのだと、今朝メフィストから受けた問いを思い出す。

心配をかけて、少し申し訳なく思うけれど、答える言葉がみつからなくて『なんでもない』と返してしまった。

そんな自分に嫌気がさして、思わずため息を吐き出す。

どう話していいのかわからない。

メフィストに迷惑は余りかけたくなかった。



「こんな所でサボタージュかい?お嬢さん。」

不意に声をかけられ顔を上げる。

ザッザッと音をたてて、こちらに近づいてくる男。

真っ白な白衣を着て、眼鏡の奥の目を細めてこちらに歩み寄ってきた。

「キミ、祓魔塾の塾生だろ?こんな所で油売ってていいのかなぁ。」

面識のない男だった。

レイナは危機感を覚え、思わず後ろに身を引く。

「逃げるなよ。」

耳元で聞こえた声。

両手を一括りにされ、乱暴に身体を木に叩きつけられる。

無駄のない動きになすすべもなく男にされるがまま。

痛みに顔を歪ませ、睨みつけようとすれば、ずいっと男が顔を寄せてきた。

「…キミ、不思議な匂いがするね。見た目は人間なのに、微かに悪魔の匂いがする。」

クンクンと鼻をならし、レイナの首筋に顔をうずめる。

この男の言葉を理解するレイナは目を見張った。

「は、なせッ!!」

抵抗しようと身体を動かす。

でも、それは余りに無力で、大の男1人に適うはずもない。

「イイコだから、ちょっと静かにしようか?」

優しい言葉とは裏腹に、スルリと服の内側に冷たい手が侵入してくる。

身体が強張り、はっきりとその顔に恐怖が浮かんだ。

「んー?」

徐々に上に上がっていく手。

不意にその指先が、奇妙な穴を探り当てる。

不審に思った男は、躊躇することもなく、レイナの服を捲り上げた。

抵抗しようにも、恐怖に身体が竦んで思うように動くことが出来ない。

「…これは…。」

じっと彼の見つける視線の先には、赤い印のついた鍵穴。

「なるほど。差し詰めキミが"卯月レイナ"、かな?」

何故、自分の名前を知っているのか。

「実に興味深いね。勿体無いな…。」

情けなく、目尻に滲む涙。

助けて、助けて…、

恐怖が、羞恥が、自分の中を満たす。

自分が、非力だと嫌でも実感させられてしまう。

情けなくて、情けなくて…!!



「アインス、ツヴァイ、ドライ☆」

パチンと、鳴らされる指。

ぽんっと軽い音がしたかと思えば、現れた煙と共に、今の今まで掴んでいた彼女の姿が消える。

急なことに驚き、まばたきを繰り返した男は状況を理解したのか、視線を移し、ゆっくりの端をつり上げ笑った。

突如現れたその存在にしがみつく彼女は声もなく涙を流す。

「…久しぶり、メフィちゃん。」

そんな男に表情を険しくし、メフィストはレイナを守るように、抱きしめた。








予期せぬ訪問者
(それはこれから起こる試練の)
(余興の始まり)


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