メフィスト長編

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…ねえ、知ってる?

『特進科に転入してきた子、知ってる?』

『知ってる知ってる。あの黒い髪の…。』

『頭いいよねぇ。』

『噂なんだけどさぁ。』

『あの子、理事長の娘さんらしいよー。』

『嘘!似てなーい!!』

『なんでも理事長がわけありで引き取った子なんだって。』

『養子?』

『そうそう。』

『あの子、頭もよくて、運動もできるけど。』

『近寄れないよね。』

『なんか怖いもん。』

『いつも無表情だしさ。』

『名前、なんて言ったけ?』

『確か…』



"卯月レイナ"





パァンパァンと、乾いた音が響いた。

銃先から出る白い煙は、重力に逆らって上に上る。

辺りは静粛に包まれていた。

森の奥で、あまりにも悲惨なその光景に、周りの祓魔師たちは目をつむりたい思いである。

目の前にあるのは、鳥とは言い難い大きな生き物の死体。

先程までぎゃあぎゃあ騒いでいたそれらが、今はピクリとも動かない。

血は殆ど流れていないのに、眼孔を開き、だらしなく口を開いて何匹も積み重なっている。

視界に写る光景には、何十、何百もの黒い点たち。

ここにいる祓魔師たちは、颶風討伐に駆り出された者たちだった。

下級から中級、極一部に上級の祓魔師が入っている程度の1つの部隊。

だが、彼らの出る幕はなく、ことは早急に終わってしまった。

ガッと音をたて、颶風の上に1人の女が立つ。

清々しいくらいキレイな黒いコートを着て、胸元のバッチが反射して輝く。

手元に構えていた拳銃を下げ、どこか遠くをみるように、顔を上げた。

今この状況を見て、信じがたいことだが、彼女がこの颶風たちを処理したということは明らかであり、手を出さずに状況を見ていた祓魔師は思わず息を呑んだ。

…3日。

それが彼女、"卯月レイナ"が颶風たちを相手にした時間であった。

1日の朝昼晩の食事はとり、しっかり5時間の睡眠時間も保持し、なんて緊張感がないんだと、最初のうち呆れていた年配の祓魔師も今は笑えない。

颶風はけして弱くはない上級悪魔だ。

1匹でも手強い悪魔が、今回比にならないくらいの大量発生。

彼女が来るまで手こずっていたのがバカみたいだった。

彼女はこの3日間自分のペースを変えず、たった1人でこの任務を片づけてしまったのだ。




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