メフィスト長編
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…肌寒さに目を覚ます。
目の前には電気のつかない暗い天井。
夏だとしても流石に夜に裸では冷える。
上半身を起こして周りを見渡すが、自分以外この部屋にはいないらしい。
本来この部屋を管理する本人もいない。
出て行くならせめてシーツくらいかけてくれてもいいだろうに…。
メフィストは深いため息を1つついて、肩を回す。
コキコキと鈍い音がし、次に手を開いたり閉じたりと感覚を確かめる。
「…全く、少しは手加減をして欲しいものです。」
怒らせた自分も悪いのだが、と内心少しは反省してはいる。
しかし、謝罪の言葉を述べても、反省の姿勢を見せても激怒した卯月は容赦ない。
麻酔薬を打たれてからの記憶は勿論ない。
研究になると他のことは関係なくやってしまうのは卯月の悪い癖だ。
彼女が人間らしくないというのはこういうところ。
パチンと指を鳴らして、いつもの正装に早着替え。
本来なら浴衣になってくつろぐところだが、試験終了から強制的に解剖室に入れられたもので、仕事がまだ残っている。
いつもの書類整理を含め、明日の結果発表までに試験を行った訓練生たちの合否を決めなくてはならない。
やることが多くて困ったものだ。
今一度ため息をつき、鍵を差し込んだドアを開く。
鍵が繋いだ先はいつも自分が仕事をする一室。
卯月の解剖室と比べ、明るいその部屋。
暗い部屋にいたメフィストはその眩しさに少々目を細める。
すぐ目がなれてきたころ、自分の視界に写った光景に目を見開いた。
正面にあるのは自分が座る机。
だが、机の上に山ほど積まれていた筈の書類がキレイに整理されていた。
メフィストには身に覚えがない。
机に近づき、まだ提出できず取り残されている書類を手にとった。
書類にはそれぞれ自分の印も押されていたし、サインもしっかり入っている。
メフィストは訳がわからないと言いたげに首を傾げ頭を押さえた。
記憶にはないことに、戸惑っているのは確かだろう。
眠ったままの作業など、夢遊病でもあるまいし、こんなハッキリキレイな字も書けるわけがない。
そしてよくよく書類の字を見れば、これは自分の字ではない。
確かに筆跡も字形もにていたが、自分の字の癖と微妙に違う。
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