メフィスト長編

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…理事長室に戻って、すぐに屋敷の廊下に出る。

直接その場所へ扉を繋げなかったのは、彼がまだ突きつけられた事実を信じられず、彼女の口からそれを聞き出すことを躊躇していたからかもしれない。

それでも歩くペースをあげ、目的地へのドアには案外すぐにつく。

マナー違反だとわかっていながら、ノックもせずドアを開いた。


「…なんだ。随分騒がしいな。」

もう何度も嗅いだ薬品の臭い、彼女の後ろ姿。

「勝手にアタシの実験室に入るなって言ってるだろ?ノックくらいしたらどうだ、メフィスト。」

少し前まで重傷をおって動くことすらままならなかったのに、今の彼女はそんな様子を全く見せない。

回復が早いのは、彼女の体質か、それとも…。

「…話がある。」

静かなメフィストの声に、卯月は振り返ることさえしない。

手元の試験を軽く振って、光にかざす。

メフィストは思わず表情を険しくさせた。

「なんなんだ、あの部屋は。」

卯月の意志など関係ないと言いたげに、メフィストは口を開く。

彼女の手が一瞬止まったが、それでも彼に目を向ける素振りはない。

「…あー、なんだ。最近どこほっつき歩いているかと思えば、"あそこ"か。」

メフィストの言葉を聞いても動揺した様子は見られず、それどころか大方のことを察したように淡々と言葉を発する。

「気持ち悪いよな。あれだけ同じ顔が並ぶと。」

薬品の粉を手に取り、試験管の中に加えていく。

「失敗作なら壊せばいいのに、あの男は昔の恋人を手にかけるようで怖いなんて言うんだ。笑っちゃうよ。」

「…そんなことはどうでもいい。」

話をそらそうとしているのは見え見えだ。

…だからこそ不安になる。

これから話すことが真実であることを暗示しているようで。

「…私は、貴女という存在にずっと疑問を持っていました。」






「魔神の炎を移植されても、何の支障もなく生きている貴女に。」

メフィストは、あくまで冷静に言葉を紡ぐ。


「貴女は、あの男とその恋人のDNAを組み換えられて作られた言わば人間の雑種。当然本来、受精を経て生まれてくる人間とは変わってくる。」

「かと言って、特別生命力が高いわけでも、治癒力が高いわけでもない。むしろ人間よりも貧弱な存在。」

「本来ならば、すぐに死んでしまう小さな小さな命でした。」

「男はさぞかし焦ったことでしょう。せっかく形となって生まれた我が子の死を、何よりも恐れた筈です。」

「そこで考えたのは、無謀な賭け。16年前に起こった"青い夜"、魔神の炎の移植でした。」




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