お借り

□理事長の苦悩
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「…今日から生クリーム禁止ね。」

「え…?」

理事長室の自分の場所で優雅に紅茶を嗜んでいた悪魔は、急な物言いをしている目の前の女を凝視する。

「だから、生クリーム禁止。何度も言わせないで貰える?」

ため息混じりに眼鏡の奥の瞳をギラリと光らせ、いつもの白衣を身に纏うレイナは、上司である筈のあゆむにそう言った。

白衣を着た彼女は、科学者兼、上一級祓魔師。

あゆむが数年前から一緒に同居している相手でもある。

「ちょっと待ってください!何故生クリームを没収されなければならないのですか!?」

あゆむは血相を変えて問いただす。

生クリームはあゆむの大好物であり、最早なくてはならないもの。

それを没収されるのいうのは人生の楽しみを1つ減らされるということ。

そんなことあっていいはずがない!

「…あゆむはさぁ。確かに忠実にアタシの言ってること聞いてくれてるんだけどね。」

「ですよね!?」

「次の解剖、いつだか覚えてるかな?」

ドキリッとあゆむは思わず反応してしまった。

科学者という地位を使って本人が好き好んでメインに研究しているのは常に"悪魔"。

その研究は、上司であるあゆむも例外ではないのである。

そしてその一環として定期的に行われる人体解剖。

次に行われるその日というのが、

「もう一週間きってんだけど。」

うっかりしていた。

嫌な予感は彼女が手元にもつ書類で確信に変わる。

「1日3食、バランスがとれた食生活をおくっているのにも関わらず、夜食に食べちゃってる生クリームがさ、ぜーんぶ台無しにしてくれてるのよね。」

ヒラヒラと手元の書類をあゆむの眼前にかざす。

それは、あゆむの健康調査の結果であった。

そして赤くわかりやすいように線が引かれている部分は、摂取カロリーの欄。

生クリームがいくら脂っこいものでも、少し摂取したところで通常の人間にしても特に害はない。

しかし、実は変な所完璧主義な彼女は、万全な状態で解剖に臨みたいが為に、少し過度なカロリー摂取でも口煩い。

麻酔をうつ上、回復力が高い悪魔であるあゆむは解剖することは多めにみているが。

「お願いします!生クリームだけは!!」

「いやだ。」

「身勝手過ぎますよ!私の楽しみをとらないでください!!」

「あんたの事情なんて知らないし。却下。」

必死で半ば半泣き状態のあゆむに関係ないと、レイナは言い放つ。

「この…!悪魔!!」

「それ、誉め言葉?」

あゆむは机に突っ伏した。

元々暴言や悪口などいうタイプではないし、これ以上は粘っても無駄。

こういうことに関しては、彼女は一枚上手なのである。

もうダメかと諦めかけたとき、コンコンと扉をノックする音。

「…どうぞ。」

「失礼します。」

何だかもう聞き慣れた声に、あゆむは顔を上げる。

そしてぱぁっと表情が明るくなった。

「メフィストさん!!」

任務からタイミングよく帰ってきたメフィストが現れる。

昔は問題を起こしていた世話の妬ける生徒であったが、今では立派な祓魔師であるメフィスト。

そして彼は、レイナの天敵でもあった。

「…レイナ、ここで何を?」

彼女を見て早々眉間に皺を寄せるメフィストに対し、レイナはチッと舌打ちを漏らす。

この2人は年は違えど祓魔師の同期であり、お互いがお互いを毛嫌いしている。

このタイミングでのメフィストの登場は、あゆむを優勢へ持っていくチャンス。

「あんたなんてお呼びじゃないから、さっさと帰れ。」

「そうはいきません。またあゆむさんに無理を言っていたのでは?」

「あんたには関係ないだろう。」

というレイナの傍らで、あゆむが激しく頷いているのを見てメフィストの表情がまた険しくなった。

「またあゆむさんで意味のわからない実験をしようとしていたのですね。」

「『意味のわからない』…?笑止!科学者皆実験から結果を見いだす。実験体をどうしようがそれは科学者であるアタシの勝手だ。」

レイナは勘に触ったのか額青筋を浮かべ、不釣り合いな笑みを浮かべる。

「…本当にあなたというあなたは最低な人間ですね。」

「あんたには一生理解できないよ、このクソ神父。」

バチバチと、2人の間を飛び交う火花。

「…それくらいにしませんか?」

後ろで様子を見ていたあゆむが、そう言った。

急にどうしたとレイナとメフィストが視線を向ける。

どうやら、2人の言い争いを見て、申し訳ない気持ちになったらしい。

…いや訂正しよう。

あゆむも悪魔だ、そんなこと考える筈もない。

こっそり視線を向けたのは、レイナの右手。

ぎこちない形で宙に止まっている腰付近。

白衣の下に、常にレイナが武器を常備していることは知っていた。

攻防戦に持ち越そうとしていたレイナ。

しかしここで武器を使用して部屋が壊れるのは避けたい。

それが正直な気持ちである。

「ですが、あゆむさん。」

「いいんですよ。いつものことですから。」

『仲直りしてください』そう言って、2人の手をとるが、レイナはそれを振り払う。

そっぽを向いて、はぁっとため息を1つ。

「…わかった。生クリームの件は大目にみるよ。アタシも大人気なかった。」

「!本当ですか?」

どういう風の吹き回しか知らないが、レイナは申し訳なさそうにあゆむにそう言った。

これは反省しているとみなしていいのだろうか?

「…メフィスト、あんたにも少し話があるから、ちょっと来て。」

メフィストの腕を引き、部屋の隅へ連れていく。

何やらコソコソと話していたようだが、暫くすると、メフィストが顔を上げ、ギュッとレイナの手を両手で握る。

「あなたのような友人を持って私は幸せです!」

「アタシもあんたみたいな理解のある友達がいて、凄く嬉しいよ。」

先程とは状況が一変し、何だか2人が纏うキラキラしたオーラ。

あゆむはそんな2人を見て首を傾げるわけだが、まぁいいかと1人納得した。





理事長の苦悩

…その夜保管していた生クリームから魍魎が出ていたとか。

やけに次の日機嫌のいいレイナとメフィストが理事長室に現れたというのは、また別の話…。






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D様宅のあゆむちゃんとコラボさせていただきました!
何だかこんなのですみません!!
企画参加させていただき、ありがとうございました。

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