過去編
□02
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…眩しい、無駄に輝く光。
頭上のシャンデリアは広いその場所を照らし、圧倒的な存在感を成している。
静かな場所でありながら、周りの視線は数知れない。
その中心で、責められるような位置に陳述台はあった。
しかし、そこに立つ悪魔は、被告人であることを忘れるほど清々しく、取り乱れる様子は見えない。
「…フェレス卿。貴方今何と…!?」
愚問である三賢者の言葉に、メフィストは笑みを浮かべた。
「それでは、今一度申し上げます。」
「研究者"卯月清十郎"が作り出しました魔神の炎を司るこの娘を、人間として生かす事をお許しいただきたいのです。」
会場全体が騒然となる。
傍らで1人、両腕を拘束され無表情で立つレイナの表情は変わらない。
すぐそばにいる尋問官に任命された聖騎士の藤本でさえも、その真っ赤な真紅の瞳を戸惑いで揺らしていたと言うのに…。
『静粛に!!』という声と共に木槌の音が法廷中に響き渡る。
それでもヒソヒソと聞こえる周りの言葉は、決していいものではない。
「どういうつもりだフェレス卿!!」
相手がどれだけ乱れようとも、メフィストは冷静だった。
「私の純粋な好奇心でございます。」
さも愉快そうに、メフィストは続ける。
「幸いこの娘は、これまで魔神の力覚醒の兆しを見せていません。それさえ無ければ他の人間と同等です。まだ危険分子と決めつけるのは早いかと。」
「だが、その娘が魔神の炎を宿しているのは事実。」
「いつ暴れだすかもわからないそんな化け物を生かしておくなどと!!」
少女本人の前で、遠慮のない罵倒。
藤本が目を向ければ、彼女は俯き表情を見せなくなった。
機械ではないのだ、精神的なダメージは少なからずある。
木槌の音が響き、審議は進まぬ一方だった。
「この娘を生かして、どうするつもりだ。」
そう問うのは藤本。
「祓魔師として育てます。正十字騎士團の為に作られた彼女にとって、それが一番得策でしょう。」
先程より一層騒がしくなる法廷内。
藤本はそんな周りに苛立ち、『もしも!』と舌打ちを漏らしたいになる気持ちを抑え半ば叫ぶように声をあげた。
それに驚いたのか、瞬時に会場はシンと静まり返る。
「…もしも、この娘の力が覚ざめたらどうする?」
いくらか落ちる藤本の声。
来ないとは言い切れない力の覚醒。
彼女が"危険因子"となされた時、どうするつもりなのか。
ほんの一瞬、メフィストの顔から笑みが消える。
その顔は、不意をつかれたというより、それを考えたくないと、言っているように思えた。
「彼女が、危険因子と見なされたその時は、」
「…私自らの手で、彼女を始末致します。」
嫌みな笑みか、皮肉の笑みか。
会場の者が、どう思ったかは知らない。
どちらでもなかったのかもしれない。
厭らしく上がる口角とは対象に、あのメフィストの瞳は、悲しみに揺れていたように思う。
「ご無礼を承知でお頼み申し上げます。」
彼らしくないその様子に、藤本は少なからず驚いていたに違いない。
「どうか、この娘に…、卯月レイナに、人間として生きるチャンスを与えてください。」
頭を下げるメフィストの表情は見れない。
まだ幼さの残る少女が、唇を噛み締め、ひっそりと涙を流した。
喩え貴方の存在が非難されようとも
(私だけは、貴方の味方でいましょう)
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