過去編

□07
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重くのし掛かる空気。

理事長室の扉を開けて感じているのはそれだ。

「あれ、お久しぶりです獅郎さん。」

こんな空気を省みず、此方に笑顔を向ける彼に尊敬すらも抱きそうだ。

机に頬杖をつくメフィストが不機嫌でもお構い無しか。

「…何故貴様が日本支部に移籍することになっている?私は何も聞いていないぞ、"宮部勇"上一級祓魔師。」

「やだなぁ、そんな怖い顔しないでよ、メフィちゃん。」

彼を睨みつけるメフィストの瞳は鋭くなり、ピキリッと音をたてて高級そうなツボに亀裂が入る。

いつメフィストの怒りが爆発するかわからない状況に、こちらがひやひやしてしまう。


「俺がこっちに送られて来たのは、日本支部の実態調査。ま、所謂お目付け役見たいなものだよ、メフィちゃんと卯月レイナの。」

言い方こそ軽いものだが、微かに鋭くなる目付き。

少しだけ中和された緊迫感に、藤本は眉を寄せる。

部屋の傍らで小鬼を抱き締め小さくなるレイナが、勇を睨みつけた。

「メフィちゃんは大丈夫だって言うけど、そんな化け物がいつ牙を剥くかわからないわけだし、上の人は不安らしいよ?」

「…監察官としてヴァチカン直々のご依頼とはな。」

「やだなぁ、俺だってそんな暇なわけじゃないよ?でもどうしてもっていうから仕方なくね。」

『メフィちゃんにも会いたかったし』などと戯れ言をほざく彼に、メフィストは内心うんざりしていた。

この男は以前から全く変わっていない。

彼の神経を逆撫でる態度も、言葉も、メフィストは大嫌いだった。

「…メフィちゃん冷たいなぁ。かれこれ3年ぶりの再開だよ?もう少し嬉しそうな顔してよ。」

「白々しいぞ。昨年の会議で一度顔を合わせただろうが。」

「あれ?そうだっけ?26にもなると最近もの忘れが酷くてさ…、」

不意に言いかけ、『ん?』と立ち上がってメフィストに歩み寄る。

「メフィちゃんまた目の下の隈濃くなった?」

「…おい。」

「心無しか、前より老けたような…。また睡眠時間1時間しかとってないだろ?ダメだよ。メフィちゃん平気でも憑依体は疲れるんだから。」

「鬱陶しいぞ、離れろ。」

メフィストの言葉など一切無視か。

白衣のポケットからペンライトをとりだし、『はい口開けてねー』と似つかわしくない言葉を発する彼に舌打ちを漏らす。

よりによって、何故監察官に選ばれたのがこの男なのか…。

「そんなに、嫌々言わないでよ、メフィちゃん。」

「…いい加減その呼び方はやめろ。不愉快だ。」

「固いこというなよ。俺とあんたの中だろ?メ〜フィちゃ〜ん。」

ぞわぞわと背筋を這う悪寒に腕をさする。

だからこの男は苦手なのだ。



「…鬱陶しい。」

そう漏らしたのはメフィストではない。

ガツンと鈍い音がしたかと思えば声にならない叫び声をあげ、勇は足を押さえてうずくまる。

所謂"弁慶の泣き所"とも言われる急所を直撃され、痛みを感じない筈もない。

「何をしてるんですか、レイナ。」

内心『よくやった』と誉めてやりたいところだが、敢えて正反対の言葉を口に出す。

表情を険しくさせる彼女は、涙目で自分を見つめる彼に言い放った。



「アタシ、こいつ嫌い!!」








第一印象、最悪
(出会いは、)
(所詮そんなものだ)


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