過去編
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「これから、君たち1年生の悪魔科学を担当することになりました。講師の宮部勇です。」
胡散臭い笑みを浮かべ、教卓の前に立つ男にレイナは不快げに眉を寄せた。
もう桜の花も散り、新しい科目、新しい講師を前に不審に思わない筈がない。
自分を除く訓練生たちが、ヒソヒソと小声で話し始める。
隣に座るシュラが声をかけてくるが、言葉を返すのが面倒でそっぽを向いた。
「悪魔科学は悪魔薬学の応用のようなもので、大して重要ではありませんが、悪魔の生態をより深く知ることが出来るため、実戦において役立たせられる教科だと言えるでしょう。」
彼のいちいちの動作に苛立ち、軽く舌打ちしたい気持ちを抑える。
何故こんな男が祓魔塾講師になりえるのか、レイナは不思議でならなかった。
愉快げに授業の概要を話す彼に、次第に生徒たちも笑い始まり、いつの間にか勇の話に耳を傾けている。
レイナの機嫌は悪くなる一方だった。
ガタリと音をたてて立ち上がれば、全員の視線が自分へ向けられる。
「どうかしましたか?卯月さん。」
「…もうあんたの授業受けたくないから帰る。」
自分を除く、6人というごく少数の訓練生たちの冷たい視線が刺さった。
重い空気。
机の上の荷物をまとめ、そそくさと出口へ向かう。
「ちょっと、そんな我が儘通すわけにはいかないな。」
腕を捕まれ、睨み付けようとも勇は怯むことはない。
「席に戻りなさい。」
「うるさい、放せ。」
うんざりする。
その困ったようにわざと下げる眉も、
宥めるような言葉も、
何もかも、胡散臭い。
不愉快だ。
「いいから先生、授業始めて。」
少し離れた机から、1人が声をあげる。
「そいつ、いつもそうなんだよ。学園長の娘だからお高くとまってんの。そんな奴、視界に入るのも不愉快だからさ、」
女の声に次々と周りもいいように言葉を投げ掛けた。
レイナは、唇を噛み締め俯く。
言葉の暴力とはよくいう。
…あぁ、こんなんだから、
「人間はキライだ…。」
そう小さく漏らし、レイナは勇の手を弾いて教室から出ていってしまう。
駆けていく足音が遠ざかり、彼はやれやれと溜め息を吐き出した。
「これは、骨が折れそうだ。」
問題児発覚
(駆けて、駆けて、)
(そうして自分は逃避する)
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