リクエスト

□毒よりも甘い誘惑
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…なんだか、胸騒ぎがした。


その理由はわからないが、今日という今日は何故か落ち着かない。

悪い予感が、してならない。

カツカツと、ファウスト邸の廊下を1人歩き、考え過ぎだろうかと卯月は溜め息をつく。

先日の任務の報告書を今一度確め、理事長室の前に立つ。

コンコンと二度扉をノックし、相手の反応を待った。

しかし、いつまでたっても答えは返ってこない。

不審に思って、今一度ノックを繰り返す。

またあいつは仕事をサボっているのだろうか、と苛立ち『失礼します』と一声かけて扉を開けた。

部屋の正面にあるメフィストの仕事机。

書類の積み上がる机に、彼は突っ伏している。

「…寝てたらいつまでたっても仕事なんて終わらないぞ。」

彼の元に近づき、揺すり起こそうとしたが、ふと違和感を感じて立ち止まった。

…紅茶のカップが倒れて書類を汚している。

流れる紅茶の筋は、やがてポタポタと高価なカーペットを濃く染めていく。

何故、寝ているメフィストの手が、力なく垂れているのか。

「メフィスト…?」

冷や汗が頬を伝う。

「メフィスト!起きろ、メフィスト!!」

乱暴に肩を揺すり、メフィストの名前を呼ぶ。

じきに瞼がゆっくりと開き、メフィストは突っ伏していた身体をゆっくりと起こす。

「…どうか、しましたか?」

いくらかいつもより血行の良すぎる肌の色。

潤む彼の瞳。

卯月はメフィストの額に手を当てた。

「熱い…。」

掌を伝って感じる熱は、いつもの彼の体温より遥かに高い。

メフィストの体調管理をしているのは他でもない卯月本人だ。

今までメフィストが体調を崩したことなど皆無で、ましてや彼ほどの上級悪魔が人の病など…、

「身体、重い?」

「…少し…。なんだか、頭もクラクラします…、」

嘘をついているわけではない。

荒く呼吸するメフィストは、背もたれにだらりと身体を預ける。

卯月はなるべく身体に負荷をかけないように彼の上着を脱がせ、スカーフをといてカッターシャツのボタンを開ける。

呼吸により上下する胸に耳を当てる。

脈拍が正常であることを確認し、少し安堵すると、彼の口内に指を入れて喉の奥を覗く。

こちらも異常なし。

なら原因はなんだと、今しがたメフィストの口に入れた指を舐めとる。

そして、そこから微かに嗅いだことのある薬品の臭いに目を見開いた。

机の上にある紅茶を試験管に取り、手で扇ぐように匂いを嗅げば、アールグレイとはまた違う、微かなアーモンド臭に表情を険しくさせる。

検試薬をたらし、軽くふると、出た結果に『クソッ』と悪態を吐く。

「何でこんなものが…!!」

ズルリと、メフィストの身体が椅子から滑り落ちる。

「!?メフィスト!しっかりしろ!!メフィストッ!!」

身体を揺すっても起きる気配はなく、舌打ちを漏らし、白衣のポケットから携帯を取り出した。


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