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□独白
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土方さん、あなたをお慕いしています・・・。



その気持ちに気づいたのはいつだっただろう?



土方さんの小姓として側にいられればいい。
そう思っていたのに、
最近それだけでは物足りない自分がいる。




・・・・・・・・・・・


障子を隔てて、廊下から正座をし、声をかける。
「土方さん、千鶴です。」
「入れ。」

障子を開け、床に置いた盆を持ち、土方さんの部屋に入る。
もう一度、畳の上に座り、障子を閉めた。
土方さんに向き直り、
「お茶をお持ちしました。少し休憩なさいませんか?」

案の定、土方さんはしかめ面をして文机に向かい、書を読みながら筆を取り・・・とても忙しそうだ。

「おう、そこへ置いといてくれ。」

こちらを、ちらとも見てくれない。



「だめです。」


その言葉が意外だったのか、やっと顔を上げてくれる。

「・・・なんだよ。」

「いっしょに休憩しようと思って、二人分用意してきたんです。少しの間、手を止めて下さい。」
にっこり微笑んでみせた。



・・・・・・・・・・・・




「無理にでも言わないと、土方さん全然休まれないんですもん。
待ってたらお茶が冷めきってしまいます。」
「千鶴、お前も言うようになったじゃねぇか。」

土方さんは、仕方ねぇな・・・と言いながら、つきあってくれる。





・・・・・・・・・・・・


千鶴が淹れてくれた茶を啜りながら、目の前の『少女』を見つめる。
屯所にいる所為で、髪を高く結って袴を穿いているが、あどけない笑顔で菓子をほおばっているこいつは、どう見ても男には見えねぇ。


京の街の治安が悪いから屯所に居れば安全だと、ここに置いているが、ここはここで男所帯だ。



「千鶴・・・お前がここへ来てから大分経つが、何か不自由はないか?」


「え・・・」




・・・・・・・・・・・・・



不自由と言えば、不自由だ。外出も制限されているし、ここで自分ができることを見つけるのは難しい。

でも・・・


「不自由だなんて、そんなこと、ないです。
それよりも、もっとお役に立てることがあるといいんですけど・・・。
土方さんも、私にできることがあったら、何でも仰ってくださいね!」
と元気に言ってみた。勿論本心でもある。




・・・・・・・・・・・・・


「お前は十分役に立ってるよ。
なんだかんだ言ったって、こうしてると気が休まるしな。」





「本当ですか・・・??」

千鶴はぱっと顔を輝かせた。

「・・・確認するなよ。何度も言わねぇぞ。」

「だって・・・土方さんがそんな風に言ってくださるなんて、珍しくて・・・。」

相好を崩した顔に手を当てて喜んでいる千鶴を見つめる。




・・・いつからだろう?
こいつはいとも自然に俺の心の中に入り込んでいた。


手放したくない思いもあり、小姓という名目で手元に置きつづけている。

最初はあんなに反対したのにな・・・と、ふと口の端を歪めて嗤う。




・・・・・・・・・・・・・・・



土方さん独特の、くせのある笑顔。大人っぽくて、触れてはいけないような・・・。




だけど最近、土方さんとの距離が近づいている気がするんです。





土方さん、
期待してもいいの・・・?


fin.

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