┣そよ風の物語(小説

□そよ風の物語…
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この雰囲気を殺したのが、アルガだった。

気分は落ち、恐らく最低の状態の雰囲気だった。
そこを無造作そして無頓着に潰せるのは、
あたかも他人のように振舞っている彼だけだ。

レッドとエリザの関係をあまりよく知らない彼こそ、適役だった。


「昼飯でも食わないか?」


無造作と言うより雰囲気を読めない人にしか聞こえない一言だが、
これのお陰で、雰囲気を壊せた。
アルガの意図など今のエリザにはおろか、レッドにもわからないだろう。

彼の性格が、こんなところでにじみ出ていた。


「もうこんな時間…ですか…」


レッドはアルガの言葉に仕方なく応じたように返した。
頭を抱えていた手を即座におろし、顔を上げた。

その表情は、“こんなタイミングで言うかな普通…”という、
アルガに対して嫌悪の感情を含んだ表情だった。

「ご飯が、先ですね…」

レッドは独り言を喋るようにそういって立ち上がった。

「話はあとで…。食べましょう。姫…」


手をさしのべた。

恐らくこの小説ではなく、ほかの漫画、小説ならば彼女は、
恐怖にうちふりえ、脅えて手を払い除けるような内容になるだろう。

エリザは違った。


手を一別し、顔を見上げた。
脅えた様子では断じてない。
吟味をしようとする、探りの目もしていない。


ただ、何が起きたのかわからないくらいボーっとしていた。


まるで、寝起きのように…。



「…うん」


眠そうな顔をしているエリザは微笑んで答えた。

それは無理をしているのか、
ただ何も考えていないだけなのか。

そして、結局その手を握らずに先々歩き出した。

レッドは苦笑いをして誤魔化した。
頭の後ろに右腕を伸ばして、ため息をついた。

そして、最初駆け足でついていった。
追い付けば、歩くわけだ。

アルガは無視されていたが、仕方ないと思っていた。

二人は余裕が、

本当にないのだ。


そして同時に、彼と彼女が凄く深い絆で結ばれているということも、このとき知った。




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