┣そよ風の物語(小説

□そよ風の物語…
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「姫様。“赤き血”のお話をご存知ですね…?」


ベンチに座る彼が、エリザに問うた。
彼は目線を下にして、本当に落ち着いていた。


「聞いただけでいくなら、殺人集団だよね…」


エリザがとても不安そうな顔をして言った。
エリザには先ほどの一言に理解してしまった…。

“レッド”の名前を隠そうとした理由も、今から話そうとする内容も…。

“聞いただけ”だったなら、お姫様の言ったような程度では収まらない。


本来なら、“少年少女の団体の中で最も強く、もっとも残忍な、人間ならざる人…。
血の通った最低の殺人鬼集団…。幼くして…、冷酷…”


偏見ばかりなら、“殺しを快感に覚えた冷酷残忍の小隊幹部”と言った具合だった…。


「レッド・エイスト…。赤き血と呼ばれた人間がいました…」





まだ幼き少年だった彼は、大好きだった母を失いました。
戦争に対して激しい憎悪にかられた少年は軍隊に入隊しました。

入隊した隊の名前は“ディスピア”。
孤児を主に集めた非公式軍隊でした。

彼らは敵に対する強い憎悪から、躊躇なく敵を殺していきました。
そして、言われました。

“あれは人間か?赤い血を持った化け物じゃないか?”





「…。私はレッド=エイスト。“赤き血の悪魔”と呼ばれた男だ…」


レッドが強く言った…。
言い終わるや頭を抱えて背を丸くした。

痛々しかった。

苦しそうに語るレッドを見たのは初めてで…
こんなに気まずく、こんなに辛い心境は久しぶりだった…。

あんな短い話に、自分を包み隠す内容などなかったし、
むしろ、大げさにも聞こえた。


「グレン…」


エリザはただそれだけしか言えなかった。
何を話すかわかっていた…。でも返す言葉は、聞いている間考え続けたが、とうとう見つからなかった。

ついにはエリザもうつ向いて、唇を噛んだ。


「…」


これはアルガにも関係がある話だ。
アルガもレッドと同じ立場だったからだ。

彼女は知っている。
アルガとレッドという組み合わせは、いわばこの国では常識に等しい。

しかし彼は別に取り乱すこともなくレッドを見ていた。
腕を組んで、あたかも深刻ではないと言いたげな顔をしている。
他人事かのように…。初めて、聞いた話題でしかも無関心だという具合に…。


この話は有名すぎた。3年前に突如広まった話で、知らない者などい。
もしかしたら、他国でもかなり有名な話。


レッドは姫に知られたくなかった。

自分が大量の人を殺したという過去は既に変えられないのだから…



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