┣短編小説

□それすらも…
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「カッコイイこと言ってたね」


「そうでもない」


「いいや、結構感動したよ」


「…。
俺は自分の意志を、彼女にぶつけた。
刷り込ませた。押し付けた。

俺がやっている行為は最低なんだ」


「それで人が救えたのなら、
それでいいじゃないか」


「馬鹿だな…。

神様を信じ込ませて“救ってあげた”気になりたくもないし、
“救われた”とも思われたくない。

偽善なんて最低なんだよ」


「救えるなら、有効に使えよ」


「駄目だよ。
偽善ってのは“裏切り”と同じだ。

“必ず護るから”なんて言った夫は、
殺人鬼に襲われた妻を助ける事が出来ないことが多い。
妻は“助けてくれる”と信じていながらも、
絶望に胸を焼かれ、そしてそのまま命を落とすだろう。

もっと酷い例を挙げるなら、
“必ず目覚めるから”と医師が親御に根拠ない嘘をついて、
一時親御は安堵するだろうが、
そうでないと知った時の絶望感は、
計り知れない」


「…」


「そういう世の中なんだよ。
俺は人を傷つけることしかできない。

残念ながら、あの人も救われない」


「―…」


「君はここで、
“偽善だから駄目”だと言いたかったのかもしれない。
だが、善意でも救えないことはいっぱいある」


「そもそも俺は、説教される筋合いはない」



「そうだな」



「ともかく一件落着。
それでいいじゃないか。

お前だって、“善”が無かったわけじゃないんだ」



「…」



「意思の押し付けを避けるなんて出来ないんだ。

なら、抗おうぜ。
どの道偽善とやらに埋もれるのが関の山でも」



「…、善処するよ」











あとがきは次…
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