┣そよ風の物語~本編~(小説

□そよ風の物語~本編~
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彼は何時しか時空をさまよっていた。
いいや、これは落ちているというほうが正しい。
彼自身も、落下しているという感覚に陥っていた。

彼の感じる感覚でいうと、
自由落下ばかりで空気抵抗など殆どなかった。
まるで何かに引っ張られているような、
そう、とてつもないものに、引き寄せられているような…。

どちらでもいい。
解放してくれと、彼は切に願っていた。


「うああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


叫べば苦しみが和らぐわけではない。
だが、叫ばすにも居られない。
冷静でいる余裕は微塵もない。
圧迫感。呼吸困難。悪戯に早まる心拍数。
そうでなくとも、苛まれるその苦しみの中、
休まることなどなかった。

今、自分が誰だか忘れそうなほど、
目の前は速く迫ってきては通り過ぎてゆく。

頭痛が…、
吐き気が…、
彼を何の容赦もなく襲う。


“お前は生きたいか?”


突然の声。
耳鳴りするくらいそれは脳に直接鳴り響く。
耳を塞いでも、まったく和らがない。


“再度問おう。お前は生きたいか?”


声が余計に、
彼の平常心を奪っていく。


「生きたい!!」


“それは何ゆえぞ”


彼は精一杯叫んだ。


「死ぬわけにはいかねぇんだよ!!!!」


突然、彼を襲う眠気。


体も冷たくなっていく。


意識が、急速に遠のいていった。


“聞届けた”


息が苦しくなっていく。


体が動かなくなっていく。


そのうち、


目を閉じざるを得ないほど、


眩しい光が、差し込んできた。



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