┣オレンジファンタジー(小説

□オレンジファンタジー第三話
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ここは普通の世界ではない。

まるでファンタジー世界。
空にドラゴンが普通に居るし、モンスターだって居る。
人々は魔法を使るし、獣人もいるし、

そう、ゲームでは割と有り触れた設定の世界だ。

そういう世界なのだ。


そしてここは喫茶店、ブルーベア。
営業時間中は必ずといって良いほど、ピアノの音と騒がしい人たちの声が絶えない。

今日も快晴であり、平和である。


「ぎゃああああああああああああああああああ!!」


この作品に携わる人ならもう何も言わなくても分かるだろう。
もはやお決まりになりつつある叫び声であるし、この出だしはもはや決定事項に等しい。
だがあえて言おう。

ジョンの叫びである。


「ブルーベアww今度は何を入れたんだwwwwwww」


この事態は凡そ予測できていたらしく、ジョンが叫ぶと同時にオイヨイヨが聞いた。
その相手は実に美人。
黒髪を後ろで結び、見事なポニーテルとなっている。
そしてそんな美しさが勿体ない事にも、目の前のグラスをただただ磨くバーテン作業をする作業明け暮れる、ただのお姉さんと化していた。

年齢も不明であれば、いまだ未婚である。


「何も入れていないわ」

「は?w」


ブルーベアが何かをやらかしたと思い込んだオイヨイヨは、逆に呆気にとられる形となった。
しかし良く考えれば分かる事がある。
よほどの事態でもない限り、ジョンは叫びまわって怒鳴りつけ、勝手に納得するという一通りの流れを忠実に遂行する。

しかし今日はそれが無い。
それはオイヨイヨにとってすれば、ある意味衝撃的。
1度限りはジョンは無敵なのだ。2度目は死ぬ。

そんな中空気を読まずか、ピアノの音だけは一切調子を崩すことなく聞こえていた。


「…ジョン、おい、どうした」


オイヨイヨもあまりの事態に困惑していた。
通常人がここに居た場合も困惑するだろう。
しかし生憎、それはそれは寂しい事に、客は彼ら以外誰も居ないのだ。

オイヨイヨは席から立ち上がり、近づく。
ジョンは机に突っ伏したまま動かない様子なので、無理に身体を仰向けにしてその状態を確認する。
無理やり目を開け、確認。
次に呼吸。
最後に脈をとり、一応なのか、胸に耳を当てて確認していた。

声に駆けつけてやってきたメイド服の女の子、この喫茶店の萌え要素ことミア=ミアミスは、その場の深刻的な雰囲気を早期の段階で察し、口に手を当てて動揺を隠せず居る。

そしてオイヨイヨはとうとう、首を横に振った。


「…毒が、盛られていたのか…?」


オイヨイヨは恐る恐る、ジョンが飲んでいたジョッキを片手に確認するも、
流石にそう分かりやすく見つかる物でもないらしい。


「でも、グラスは今磨き終わったものを…っは!」


ブルーベアが状況把握にと語ったその瞬間、可能性が見出された。
彼女は拭き終えてすぐのグラスに毒を盛るのは極端に難しい。
なら、その磨いた物に毒が混入されていたなら、どうだろうか。


「いや待てブルーベア、俺のコーヒーがそうではないと言っている」

「…そ、そうだったわね」


そう、その説は実は通らない。
オイヨイヨはジョンと同時刻にここへ来た。
そしてほとんど同時刻に、飲み物は口にしたのだ。
更に、オイヨイヨのそのマグカップは、ジョン同様に磨いて渡した物。
同時刻にそれを飲み、何もないオイヨイヨ。

つまり、別の方法で毒が混入されたのだ。


「…オレンジジュースに入っていたってことは、考えられないか」


オイヨイヨは至って平静に言う。
しかし、一番に動揺しているのはオイヨイヨだった。
思考を凝らす。
ブルーベアには逆に、何時でも毒を盛るタイミングがあった。
堂々とオイヨイヨ、ジョンの前でそれをやる度胸がある彼女だし、それくらい堂々ではないとむしろ怪しまれる。

しかし、動機が無い。
ジョンとオイヨイヨは良い金づるという意味もあるが、何より、
「ジョンだけを殺し、オイヨイヨを殺さない」のには何のメリットもないのだ。


「…ごめんなさい、わ、分からない」

「い、い、今すぐ電話だ!!CABINに!!」

「わ、わかったわわわ、わ、えっと、え!?どこに電話だっけ!?」

「CABINだCABIN!!」

「もももも、もしもし、CABINの特設“質問何でも答えますセンター”ですか!?」

「そっちの窓口じゃねぇよwwwwwwwwwwwwwwwwww」


あまりに動揺するブルーベアが面白かったのか、
現在の状況を捨て置いてまで笑うオイヨイヨ。

と、いきなりジョンが立ち上がる。
その様に腰を抜かすのはミア、あまりの突然さに驚き固まるのがブルーベアにオイヨイヨ、
こんな状況下でも優雅にピアノを弾く女の子。

シュール以外の何物でもない光景だ。


「…んんんんんんんんんんんめぇえええええええええ!!!!
 姐さん!もう一杯!!」


オイヨイヨが椅子を蹴飛ばし、ジョンの顔へクリーンヒットさせる。
そのあまりもの衝撃に、ジョンはイナバウワーをしつつとどまる。
と、そんなオイヨイヨに対し椅子を投げる人物がいた。

ブルーベアである。


「んなにすんだよ!!www」


頭に角が当たり、それは劇的な痛さだったと思うのだが、
オイヨイヨはいつもの調子で受け答えをしている。
受けたのは椅子だったが。


「ウチの備品を雑に扱わないでちょうだい。
 私の身体同然なのよ、その椅子は」

「その“身体同然”の椅子をお前も投げてきただろーがwwwwwwwwwww」


ジョンが先ほどまで心肺停止にあった事などお構いなしに言い合う二人。
ミアはまだ腰が抜けており、しかも突然の事態についていけていなかった。


「はいジョン、もう一杯よ…。
 って、毒入ってるかも…」

「ありがと姐さん!」

「あ!」


条件反射、いいやもはや脊髄反射と言っていい程のブルーベアの対応。
そしてそれにより用意されたオレンジジュースをまるで奪うように、ジョンは受け取り一気飲みをする。


「んっぷっはぁ!!」


毒を考慮していたのだが、一切毒らしい反応は無い。
脳みそまで筋肉で出来たジョンの事だから、毒を打ち負かした挙句体内でワクチンでも作ったのではなかろうかと、
何故かそちらばかりを気にしているのはブルーベア。

すると、オイヨイヨがジョンの元へ歩いていき、肩に手を置く。


「どーしたんだオイヨーヨ」

「お前…もしかして…」


何故か涙しているオイヨイヨ。
ワケの分からない急展開。
何時になくハイペースだなぁと、他人事だった故に他人事風にミアは思った。


「オレンジジュース、美味いか?」

「おう!めっちゃめちゃ美味い!!」


「どういうことか説明してもらおうかしら、オイヨイヨ」

「ああ」


と、どこから引き出したのか、オイヨイヨは黒板を取り出す。


「ジョンは来る日来る日と色々と変な物を混ぜられたオレンジジュースを飲み続けた」


黒板に触れる事をしないオイヨイヨ。


「今まではその不味い何かを飲んでから、普通のが来る。故にそれはただの口直しになっていたんだ…」

「…」

「一発目でオレンジジュースにありつける…、コイツ、それで一瞬、あまりの喜びに…」

「…ッ。
 私、彼に辛い思いを…させていたなんて…」


黒板は出しただけらしい。
ミアは無視して掃除をすることにした。



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