┣そよ風の物語(小説

□そよ風の物語…
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あぁ、今から物語が始まる…
つまらなく、楽しくない物語が…。
舞台などない。

あるのはベッド。

愛用ナイフが折れたまでは覚えているが、気が付けば俺はベッドに倒れていて。



ふと、身体を起こす。
ひどく身体全体がきしんだ。

横を見れば先ほどまで俺と共にいた戦友であり親友であるソイツが隣に寝ている。

どうやら、完全に眠っているようだ…。



ッ?

おかしいな。頭が痛い。

傷のせいか、転んだせいか、ベッドのせいか…。

そこには、考えても意味のないことを考えている俺がいた。
いつもよりも深く考えるようになっている…。無駄に。



自分は身体をベッドからおろす。
白髪が変な方向に曲がったままだ。

しかし気づくわけもなく、包帯だらけの身体の上に服を着た。

痛みは半端なかった。
でも動けたし、我慢も出来た。

傷が開く事もなさそうだ。


右の肩にいつも縛りつけていた布を手にとった。
それだけ汚れひとつなかった。

赤い布。
だが、血も泥も付いた様子はない。

彼は手にとったまま固まった。


しかし奇妙奇怪と驚くわけじゃない。
むしろ関心の目で見た。

今先ほど着た服は血も泥も付いている。
洗ってくれた形跡もない。

この、赤い布だけが、
汚れなかったというのだ…。


偶然をすこし面白いと思った…。



「コイツにやるか…」



不意に口から言葉が漏れた。でも、気にもならなかったし自覚できなかった。

白髪が布を眺めながら数歩移動した。
隣にいた赤髪の服の上に例の布を置いて、
そしてしばらくたたずんだ。


理由などわからない。
別れを惜しむ感情か、ただ次にする行動を考えてなかったのか、
わからない。


とにかく、長く戦争を共にした赤髪の男からはなれようと思った。

彼を巻き込んだのは自分だから…と。


布を置き、彼の顔を少し見た。
顔など今の立ち位置から見える筈もなかったが、それで良かった。
躊躇しなくてすんだのだ。

たたずむ理由が、別れ惜しみであることを願った。





味気ない物語…


もう出発なさりますか。

幕も昔の昔に持ち上がっておりますが、長いのはここからで御座います。


それでは、物語は本編へと向かいます。
ゆるりとお楽しみ下さいませ…
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