┣短編小説

□美しい名前…
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泣きたい時ほど涙は出なくって…、

唇を噛み締めて過ごす、何も無い…真っ白な夜。
部屋に独りきり。
あるのはタバコと、何ともいえない感情…。




着(つ)いてみたら、彼女は身体中に管とかがいっぱいついてて…、

俺は呟いたんだ。
そう思いたかった。

そうであったなら、どれだけ気が楽だっただろうか…


「あぁそうか。ちょっと疲れて、寝てるんだな…」


でも現実は、酷く冷酷だ。


「いいえ。もう、目を覚まさないでしょう…」


俺を通り過ぎようとした医師は、耳元でそう囁いて、出て行った。

悲しすぎる真実。
それがこの世界で一番悲しい答えだと思えた。
冷たくて、苦しくなるような、最低な答え。

想像もしたくなかった答え…。

俺はそんな言葉を聞いた瞬間、
悲しみよりも自分の中に黒い気持ちが生まれた…。


かすれそうな声で名前を呼んだ。
誰も居ない。

たった2人きりの病室では、
そんな小さな声すら、響き渡る。

小さく反響する俺の声。
ふいにゾッとするほど、それは虚(むな)しく響いた…。



あぁ…、時計の針を元に戻す魔法があれば、
この無力な俺の両腕を切り落とすというのに…。



微かに、この手をなぞった指先。

病室で眠ってしまっていた俺の腕を、
彼女がなぞってくれた…。

そんな小さなサインにすら敏感になり起きる俺。

あぁ、こんな風に君の心の音に耳を澄ませて過ごしていればよかった。




あぁ

今思えば、俺は想いを隠したままっ笑っていたな。
君の心を知っておきながら、知らないフリをして。

これは、そんな冷たい俺に対しての罰なのだろう…。


俺の性なんだな…。




今、世界は2人のために回っているんだよ…

世界に2人ぼっちで、鼓動が聞こえるくらいに…、一緒なんだ…


何度だって呼ぶよ。

君のその名前を。

だから、目を覚ましてくれよ…


今頃気が付いたんだ。

君のその名前が、とても美しいことを…。


何度だって呼ぶよ…

君のその、名前を…。


次があとがき…
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