┣短編小説

□俺は果実か風か
1ページ/3ページ

俺は風なのか…。
それとも…、果実なのか…。




風だったならば俺は、通り抜けるべきだ。

淀(よど)んだ空気を吹き飛ばし、
自分も消えて行くのなら、それは素晴らしいことであり悲しいこと。


だが、熟した時だけ甘いだけの、
簡単に朽ちる木の実だというのなら、

雰囲気を即座に潰す上、邪魔な存在。



どちらにしても、退くべきなのだろうか…。




「なぁ…、俺は果実か?風か?」


「…無茶苦茶な質問のくせ、思わせぶりね」




彼女は本を閉じる。


「簡単な質問ね。あなたは果実」


「何故だ」


「風ってうのはね、貴方が私と出会うまでの経路。
貴方の突き進んできた道は、嵐のようなものだったわね。

だから私は最初、台風でも来たような気持ちだったよ」


「…?」


「いつでも移動できるのは限って“未完成”な存在ね。
種だって、完成品といえばそうかもしれないけど、成長してない。
木の実だって、種だって、運ばれてくるもの。

そして、場所を探してたどり着いたと思えば発芽して、根をはるよね」


「…。そして、花を咲かす…」


「そうよ。

だから人はね、其の度その度に、その環境に適した根をはるんだよ?」




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ