┣短編小説
□俺は果実か風か
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俺は風なのか…。
それとも…、果実なのか…。
風だったならば俺は、通り抜けるべきだ。
淀(よど)んだ空気を吹き飛ばし、
自分も消えて行くのなら、それは素晴らしいことであり悲しいこと。
だが、熟した時だけ甘いだけの、
簡単に朽ちる木の実だというのなら、
雰囲気を即座に潰す上、邪魔な存在。
どちらにしても、退くべきなのだろうか…。
「なぁ…、俺は果実か?風か?」
「…無茶苦茶な質問のくせ、思わせぶりね」
彼女は本を閉じる。
「簡単な質問ね。あなたは果実」
「何故だ」
「風ってうのはね、貴方が私と出会うまでの経路。
貴方の突き進んできた道は、嵐のようなものだったわね。
だから私は最初、台風でも来たような気持ちだったよ」
「…?」
「いつでも移動できるのは限って“未完成”な存在ね。
種だって、完成品といえばそうかもしれないけど、成長してない。
木の実だって、種だって、運ばれてくるもの。
そして、場所を探してたどり着いたと思えば発芽して、根をはるよね」
「…。そして、花を咲かす…」
「そうよ。
だから人はね、其の度その度に、その環境に適した根をはるんだよ?」
…