┣短編小説

□強い毒性を持ったガスのような物
1ページ/4ページ

俺は最低な人間だと思う。

男だとか、そこからじゃない。


人間として、どうかしていた…。





「どうしてかな…。

 どうして…かな…」





救えたはずだった。


俺なら救えたはずの存在が、
たかがこの程度の奴らに…、


奪われてしまった…。






しかも俺は、コイツらを殺せなかった…。


憎くてたまらないのに…、
こんな奴ら、死んでしまえと、思っているのに…。



仇を討てばよかったのに…。





ただただ叫んで、そいつらを殴って殴って、殴って…。









「どうして…、俺は…」








救えない。

ちょっとだけ考えれば、
ほんのちょっと動けば、

刹那でもいい。

俺の手が動いていれば…。







「それは君が、馬鹿だからだ」







真っ向から責めてくれてありがとう…。


それによって俺に架(か)せられた十字架が軽くなったわけではないけど、


気が楽になるよ…。







「責められたいなら私があの子の代わりに責めてやろうじゃないですか。

 お前がほんの少しでも動けばよかった。
 そうすれば助かったんですよ」


そうだ。

ごめんな。


その上、死に追いやったあいつらを殴るしか出来なかった俺を、許してくれ…。


「そうやって、自分を責めるってのは、
 死んでしまった子に対しての冒涜(ぼうとく)と思え…」



…は?



「人はそんな都合よく出来ていないのです。
 私に君の苦しみが分からなければ、あの子の苦しみを分かるわけじゃぁないでしょ?

 だったら、勝手な意見を喋れもしなくなったその子に押し付けるもんじゃない。


 その子が君に対して、怒りを覚えていなかったらどうするんですか?


 そんな行為から、あの世でもあの子は泣いているかもしれないでしょ。

 “自分が死ななければ、あの人は自分を責めなかった”と」








「いいですか、君は馬鹿だ…。

 今も君自身を責めているんでしょう?
 何時までそうやって若造や小僧の心を引きずるつもりです?


 救えなかった事は恥じるべきです。
 ですが君が人を殺さなかった事はいい事ですよ。


 殺してしまっていたら、
 その要因を作ったのは“あの子”になってしまうところだったから」






「自分を責めるのは結構。

 俺はは何時までもおたくを責めよう。
 望むなら責めてやろう。何なら殴り飛ばしてもいい。


 だが、それは逃避だ。
 自殺すれば、それも逃避だ。


 国会議員が“責任を取る”と言いながら辞職することに等しい。


 責任を果たしなさい。
 責めることが責任を果たすことになはらない。
 逃げだそうなら、俺はその時もおたくを殴り飛ばしましょう。


 それをよく覚えておいてください」





「責任を果たす方法なんてないだろっ!!!!
 他人が口をはさむなよッ!!!!


 なんでもっと叱ってくれない!!!!!!
 なんでもっと責めてくれない!!!!!!!!」






「…、君は今、馬鹿で甘えん坊のクソ野郎だが…、


 あの子に対してそこまで真剣になれる…。


 誰が君を、悪いと言えるのでしょうか…」








俺が悪いんだ。


俺がいけないんだ。


俺なんか、死んでしまえばいいのに…。


俺なんか…



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ