┣短編小説

□それが悪質な嘘だったならば…
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例えば人は、

かなり落ち込んだりするような嘘をつかれて、
それに上手く掬われて、溺れている中、

「嘘でしたー」

なんて、
言われたらどう思う?


それがかなり悪質な嘘だったならば…、
あなたは、

どう思う?どう感じる?





私にはそうだったらよかったと、
思うことが何度もあった。












私はハイムの手を引いて、無理矢理に走った。


グレンのいない場所へ。
声が届かない場所まで。

誰もいない、たった2人きりの空間へ。





「エリザぁ!?どうしたの!?」


ハイムだって、驚いた顔している。
でも、私は無言。

顔を覗き見ても、別に何も言わない。



今、何かを言うにも、全てのタイミングが悪すぎる。


枯れた木々の枝下を抜け、
凍った地面を、水溜りだった場所も走り抜けていった。

何度も何度もこけそうになっても、私は走った。
それが危険でもいい。
むしろ、怪我でもして、自分を傷つけてしまいたい。

この胸の痛みを、忘れさせてくれるなら!!



月明かりしかないここは、凄く暗いようで、明るい。
そして、月の光をさえぎる事のない、凍った湖の辺。


氷は、月明かりを綺麗に照らすことはない。

でも、
それでも、絶景だったろう。




走って熱くなった身体。
相反して、冷たい肌。
白い息が、
激しくお互いの口から出ていっては、空を舞う。

そして、それは儚く散っていくように、空気に溶ける。


世界に溶け込んで行く…


そんな様子を私は見て、
星を見て…、月を見た。



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