┣そよ風の物語(小説

□そよ風の物語…
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先ほどまで申し訳なさそうに話していた少年は、男に冷たい視線を送る。
有り得ない程に冷めた目で睨むと言ったほうがよいだろうか。

この様子は、彼は怒っていることを示している。
ギャラリーには分からなかったかもしれないが、
今睨まれている大男には身に沁(し)みるほど理解できた。

男は一度だけだが怖いと思った。しかし自分は少年よりも身体が大きい事に気がつき、
態度を変えない。


「文句あるのか。こっちは気分悪いんだよ…」



男は少年に近づきながら言った。その様子は明らかに有利を悟った者の態度。
油断しきり、ただ威圧をかけようと睨み、接近する。


「しかしです。私にはどうする事も出来ません。詫びの言葉を送る事のみです」




男は身体が大きい。2mあるかないかだ。
その大男が少年に腕を振り上げた。

既に血走った目。止まる様子は微塵もない。


少年は冷たい目の色を変えた。

驚き怯えた目でないことはここで皆様に伝える。



ほんの一瞬、恐ろしい眼になった。

大男がそれに気がついたならここで腕を止め、逃げだす…程恐ろしかった。
しかし止める気がないのは見ていなかったのだろう。



大男が吹き飛んだ。
空中を、数秒ほど浮いていた。

しかし少年はそのままの位置だった。

吹き飛んだ後、大男はかれこれ5mは転がった。



少年は、相手が腕を振り上げた後に“殴り”飛ばした。
それは驚異の速さ、脅威の威力であることを今の有様が物語っている。

少年の目の色は最初に戻り、申し訳なさそうにこう言った。
それは照れ隠しとか、本当にそんな軽い行為のようだった。


「すみません…。つい…癖が」


少年はあれを条件反射だと言い張りだす。
むしろこれではいい訳だ。
男は無論、聞いていない。いや、聞こえていない。
というか、気絶しているのだから聞いているはずがない。


「私にケンカ売るあいつがいけないのよ」


小さな少女が少年に並んで言った。
まるでたちの悪い子どもだ。相手は文句言えない状態なので余計可哀想だ。
聞いてないので可哀想というのもおかしいのかもしれないが。


「何故、わざわざ事を大きくしたんですか…」


少年は少女を叱る勢いで話しだす。

しかし注目していただきたい。
少年が少女に対して敬語であること。
少年が軽装備であるにも関わらず護衛的な人間であること。
年齢にもよらず肩の装備部分にこの国のエンブレムが描かれていること。


「ムカつくんだもん…」


「あのねぇ…」


少女の返答になんの反省のいろもないので少年は呆れた。




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