┣短編小説

□最悪の葛藤
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「まて!!落ちる!!!!」

「やだぁっ!!」

「ッ!」


レッドはエリザを容赦なく引っ張り上げた。

もうアルガは見えもしないだろうに…。
声ももう届かないだろうに。

実際、落ちてから20秒がたった。

既に、谷底ではないだろうか…


そんな最悪の光景も思わず頭によぎってしまう。


「はなせよ…」


エリザが威圧的な目つきでそう言った。


「…なに?」


そんな目に恐怖など微塵も感じなかった。
驚くほどに気を損ねたりしなかった。

レッドは腕を強く握った。
恐怖の代わりにも怒りがこみ上げてきたからだ。
腹の中で燃え盛るのを感じれた。

ここは雪山で、
今は明らかにマイナスという気温の中、
本当に、気分も熱くなってしまった。

次の言葉で、理性が吹き飛ぶかもしれない。
が、かろうじて今は抑えている。

こんな場所に長いする必要などないのだ。


長居は、危険だ…。
そう、いち早くもここから離れないと、
アルガの場所だけでなくここも危険かもしれない。
必要がない以前に、急がなければならない状態だ。

まして、今は皆が動揺してしまっている。
不安と動揺は更に危険を増す可能性がある。


「離せっていってんのよぉ!!!!」




「このッ!!!」



辛うじて支えてあった何かが切れた気がした。

抑えていた感情が、爆発したというほうが良いだろうか。
とにかくも、今行うべき行動じゃなかった。


あぁこの行動を後で悔いるんだろうなと、
そう、理解をしていながらも、

姫に対し、首襟を持ち、勢いよく崖と正反対に連れて行き
そのままエリザの背中を壁にたたきつけたのだ。


エリザは引っ張られた時に首が揺れ、
一瞬何が起きたか分からぬまま雪を浴びた。

振動も威力もあまりなかったため、
上から溜まっていた雪が落ちてきただけですんだのだ。


ハイムはどうすればいいか分かっていない。
いや、分かるはずもないのだ。

止めるにも止めてよい雰囲気ではない。
だが、仲裁できるのは自分だけだということも分かっている。

どちらを選ぶにせよ、
何らかの抵抗があった。


今、このパーティはアルガを欠いてしまった。
重役損失と共に混乱。動揺の上に恐怖に駆られもした。

最悪の状況下なのは、誰もがわかっていた。

だからこそ今、皆が団結すべきなのだ。
少なくともハイムは今喧嘩をしている場合ではないことを理解できた。

だがこの二人にその判断を押し付けるのは不可能だ。

前から、彼女と彼の喧嘩は当たり前のように行われてきた。
そう考えると、この喧嘩もありふれた日常といえなくも無いが、

今回はいつもの仲の良い喧嘩とは違う。
この二人が本気にぶつかり合うというのは、
現時点で最悪の状態のはずだ。
それどころか、いつものそれでさえ止めるのは無理だと、
前にアルガが言ったのだ。

幾度もこのような事態を経験しているであろうアルガがそう言ったのだ。
止められるはずもない。



今、これほどに憎悪と険悪漂う喧嘩を、
どうやって止められるだろうか…。




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