┣短編小説

□強い毒性を持ったガスのような物
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「私がね、説得したのにあの人は自殺しました。


 責めてほしかったんでしょう。
 なんの解決にもならないと知ってね。


 私はどうすればよかったでしょうか…。


 まるで正論を押し付ける私は、
 実は悪だったのでしょうかね…。


 自分の意見の押し付けは、私だったようで」





「わかりません。

 貴方の言うとおり、
 他人の痛みは絶対に理解できませんので。

 過ぎてしまった今、正しい、正しくないなんで、ありませんので。


 責任を負いたいなら責任と思えばいいだけです。


 でも、無理はなさらないでください。


 どれだけの代価を払っても戻ってこない。

 その人は、戻ってはこない。


 それが事実でしょう。


 代償の無駄使いです。
 そんな費用、他に回すべきでしょうから。

 遺族ならともかく…」







「護れない…。


 それがどれだけ辛いものか、
 なんとなくですが分かりましたよ。

 彼と類似するだけでしょうか。
 それとも、まったく違う、別物なのか。


 私は別に死ぬ気はありませんがね」







「好きにしなさい。
 好きに考えなさい。

 相手とはもう喋れないでしょうから」






「人と人との接触をほとんどの人は、“他人事”として見れない。


 接触のない人が事故死しても、悲しくないように。

 でも、一度でも会ったことがある人に対しては、
 何かしらの感情を抱くものです。


 人と人との接触後の悲劇は、いわゆる、爆弾物なんです。


 いいや、毒ガスかな。


 抵抗のない人は、成すすべなくその毒ガスの影響を受ける。


 どうすればその毒を取り除けたと、
 貴方は思いますかね。


 次、こんな事態が起きたら私は止められず終いです」





「毒ガスに抵抗のない人を救えば、
 後遺症は計り知れませんね。

 救ったはずのその人に、死んだほうがマシだったといわれると、それはもう貴方にしても生き地獄でしょう。


 人を救うとは、そういうものなんでしょうね…」





「なるほど」





「生かすも殺すも貴方次第。

 どちらにしてもデメリットというものはありますからね。





 どちらがよいか、私は知りません」






「生きてほしいです。私はね。


 彼は死んで、満足でしょうか?」






「幸せの容量が大きくなった人間には、
 満たされていなかったらそれだけで苦痛なんでしょうか。


 厳密には満足でしょう。

 死ねばその容量も、消え去りますから」






「いやいや、

 酒が入るとついついこんな湿気た話をしてしまう。
 歳をとるのはいけませんな」


「失礼な」






「では、飲みなおしましょうか。

 焼き鳥をいっぱいに食べましょう」






「そうですね。
 それがいいでしょう」








他人事じゃない。
知っている人物との死別。

その毒ガスは残留しやすく、後遺症を引き起こす。



満たされると人はダメになりますね。



私も、その一員だろう。



だけど私は生きますよ。



生きたいですからね…。


…次、曖昧な解説です
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