┣短編小説

□最高の犯罪
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「サム刑事。あんたはコレをどう思う?」


「あぁ。そうだな」


茶色のレザージャケット。
革であろうそのジャケットに合う、ウェスタン帽子

口には甘い香りを漂わせる、パイプ。
刑事というより探偵というほうが正しいようで、そうでもない格好。

目の前にある、バラバラの死体を見て、
顎鬚が少しあるナイスミドルのその男性は、
別に何とも思わない様子でそれを見る。


「少なくともいろいろと物を食べて太ってるお前さんが犯人じゃねぇな」


殺人現場とは思えない笑いがどっと起きた。
何せ皆、戦争などを経験して、感覚が麻痺している奴ばかりだ。

戦争とは身近だ。
人を殺す戦場に行くことが、戦争を経験した人と、いえるばかりではない。

人によっては、爆撃を受けた街で生き残ったなど、
戦場とは違う、一方的な攻撃によって…を経験した者もいる。


しかしまぁ、麻痺したというより、
望んでそれを麻痺させたというほうが正しいだろう。



戦争の光景というのは、すさまじい。
人を殺した…見殺しにした…なんて、平和な世界に返ってきて気が付いてしまえば、

ソイツは自殺をしたがるようになる。


強い罪悪感は、果てしなく続く。


だから犯罪は激化した。

“人を殺した”事に開き直り、
更に罪を重ねる人間が、増えたのだ。



「ともかく、だ。
こんな事を平然としていく奴は、人間じゃねぇな」


そんな事を言われた付き人は、頭をかいた。


見る先には、無残に切り裂かれた少女だった物体。

無事なのは、首から上だけだ。
年齢は、恐らく15歳前後。


だが、その目や表情に初々しさなどない。
少女と言い難いほど苦痛にゆがめた、悲痛な顔。

年でもとっているように見えるほど、
その顔は歪んでいる。


歪めさせられたわけではない。

生きたまま無残に殺されるまでの嬲りで、
叫び、のた打ち回り、しわを寄せた彼女自身の、恐怖がそうさせたのだ。


その表情にあるのは本当に、絶望のみだ。



残酷すぎて、普通なら目を伏せるようなほど、
それは、酷い有様だ。


少女だった物体の真後ろにある血文字。

おそらく、この少女のものを使ったのだろう。


犯人が、あえて残して行く文字。


「殺される最期まで泣き叫ぶ彼女は、最高の女性だった…か。

残酷な言葉さえ除けちまえば、
ただの変態程度なのにな…」


その場に笑いが起きた。

だが、私は笑えない。


その現場には、3名程の死者が出ているのだ。

3人か、4人か。


人数を知りたければ、パーツを組み立てていくしかないだろう。


その部屋はもう、警察関係の人間が多く出入りしていた…。



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