etc.

□境界人たちのとある問答
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 世界の狭間。調律者を担う二色の翼を持つ青年は、乱立する平行世界の様子を眺めていた。
 それぞれに些少の変化はあるが、多元宇宙の運行に大きな支障はない。光と闇の均衡は一定に保たれている。…今はまだ。
 いずれある世界の島国を覆う闇の気配を感じ取りつつ、青年は混沌の兆候が他にも存在しないか目を光らせていた。
 と、一つの世界の表面が乱れる。青い海と空が眩しいその場所に、青年は紫苑色の瞳を向けた。

「………帰って来たのか」

 次元の境界がうねる。鏡のような形状をした幻想世界から、長い漆黒の髪と、それに映える赤いリボンを結んだ少女が現われた。
 彼女の胸元には、七色に光るペンダントが揺れていた。

「サクヤ……いや…それともカグヤと呼ぶべきか」
「……私は『サクヤ』よ」

 彼女が『その名』を名乗ると、少女の姿は一瞬にして妙齢の女性のものに変わる。

「あの名前は、彼にだけ呼んで欲しいものだから」

 錬金術を封じ込めた、特徴的なラインを描くドレス。頭の高い位置で髪を結い、神秘的な衣装を纏った女性は、青年と同じ空間に降り立った。
 無感動な口調で、青年は興味なさそうに返す。

「名前なんてものは、ただの記号に過ぎないだろう」
「そうかしら。貴方にだってわかると思うけれど?」

 先程まで少女だった女性は、意味深に微笑んだ。

「貴方だって、今の姿を“あの名”で呼ばれたいとは思わない様に」

 青年は、少しだけ不快そうな表情を作る。
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